あのね、子供の頃住んでいたアパルトマンの、お隣の部屋にね、とてもステキなお姉さんが住んでいたのよ。
ううん、ステキなお姉さんと、お姉さんにお似合いのステキなダンナさまと二人で、住んでいたの。
お姉さんのお腹には、赤ちゃんがいてね・・・。
晴れて暖かい日には、よく、テラスに椅子を持ち出して編物をしていたわ。
そう、生まれてくる赤ちゃんの為にね。
小さな小さな、靴下だったり、ミトンだったり・・・よく飽きないなってくらい、イロイロなものをたくさん、たくさん編んでいたわ。
---きっと、キミのことだから、その様子を飽きもせずに見ていたんだろう?
ふふふ、わかっちゃった?
ええ、そのとおりよ。
一本の毛糸がお姉さんの手で、イロイロな形に変わっていくのがなんだか魔法みたいで・・・。
それからね、お姉さんの膝に凭れて、いろいろなお話をするのが楽しみだったのよ。
学校から帰ると、すぐにお隣に駆け込んじゃったりして・・・。
お姉さんは私と赤ちゃんと二人にいろいろなお話を聞かせてくれたのよ。歌も聞かせてくれたわ。
そしてね、お腹がかなり大きくなった頃、お腹を触らせてくれたの。
---こんなふうに?
うん、そんなふうにね。
そしたらね、赤ちゃんが私の手をポコって蹴ったのよ。
まるで、赤ちゃんが私に挨拶してくれたみたいで、とっても嬉しかったわ。
そしてね、とっても幸せな気分になれたの。暖かな気持になれたの。
それからね、赤ちゃんに早く会いたいなって、思ったの。
---それで?
或る日、学校から帰ったら、兄さんが私を病院に連れて行ってくれたの。
通された病室には、お姉さんとお姉さんのダンナさま、そして、赤ちゃんがいたわ。
抱かせてもらったその赤ちゃんは、とっても軽かったけど、とっても重くって、くにゃくにゃで今にも壊れてしまいそうで・・・。
真っ赤な顔をしていて、おサルさんみたいだったんだけど、でも、輝いて見えたの。
天使みたいに可愛いなって思えたのよ。
あのね・・・夢だったの・・・
---え?
ずっと、ずっと前からの・・・。
子供の頃からの・・・。
いつか、大人になって、
あんなふうに、あのお姉さんみたいに、
愛する人の赤ちゃんを自分の腕に抱くことができたら・・・って・・・。
ずっと、ずっと、そう思っていたの。
BGに攫われて、こんな身体にされてしまって・・・。
泣くだけ泣いて、それから、忘れてしまってたわ。
だって、もう絶対に叶いっこないって思ってたんだもの。
叶う筈のない夢なら見ないほうが、忘れてしまった方が・・・って、そう思ってたの。
でも・・・
もうじき、その夢が叶うのね・・・。
ウソみたい・・・
----ウソじゃないさ、本当の事だよ。
そうよね、本当の事なのよね。
お腹の赤ちゃんが、動くたびに、ソレを実感してるのにね。
まだ、時々、夢じゃないかって・・・。
----大丈夫だよ、どんな事があったって、ボクはそれを夢で終わらせたりはしない・・・。護りとおして見せるよ。
ジョー・・・そんなにキツク抱きしめられたら、苦しいわ・・・。
-----あ・・・ごめん。
でも、もう少し、このままでいさせて・・・。
あなたの腕の中にいさせて。
・・・ジョー、愛してるわ・・・
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2003/12/02