このページの壁紙はShapeさんからお借りしています
ジェーンが亡くなって、しばらくたった頃のことだった。レッスンから帰るなり、フランソワーズは
「バレエ団でジェーンの追悼会が、催されることになったの。」と言った。
内輪で行われるものだったが、特に親しかった何人かのダンサーが踊りを披露することになっているので、小さくはあったが、ホールを借り切って行われるそうだった。
フランソワーズは、ジェーンのライバル兼親友ということで、トリを務めることになっていた。
「何を踊るの?」
と、僕が訊ねたら、
「『瀕死の白鳥』を踊ろうと思うの・・・」
君は、迷うことなくそう答えた。
「ジェーンとの思い出がいっぱいある作品だから・・・」
そういうと、思っていた。
1年くらい前になるだろうか・・・。次の公演で瀕死の白鳥を踊ることになったフランソワーズは、壁にぶちあたり、悩んでいた。彼女の役の解釈と、演出家の求めるものとが違うのだと言っていた。
彼女は、いろいろな資料を読み漁ったり、数多くのダンサーの『瀕死の白鳥』の映像をみたりして、なんとか、彼女なりの答えを探そうとしていた。そんな時、一緒に悩み、励ましてくれたのがジェーンだった。
一緒に図書館に通ったり、レッスンのない日も、二人で稽古場で、練習を重ねたり、正直言って、僕なんか入り込む隙間もないくらいだった。
そして、彼女の「瀕死の白鳥」は、大好評を博した。最終日の舞台を観に行った僕は、いや、バレエのことに余り詳しくない僕でさえ、息を呑むほどだった。
追悼会の当日。
僕は、ジェーンと一緒に亡くなった夫のサトルの遺影の後ろの席にいた。
幕が上がり、白い衣装を身につけたフランソワーズが、いた。
切なげに、儚げに舞う彼女は、今、僕の知っている彼女ではなく、一羽の白鳥だった。
「瀕死の白鳥」と言う作品は、アンナ・パブロワという、有名なバレリーナの為に書かれたものだと、いつかフランソワーズから聞かされたことがある。でも、今の僕には、それが、彼女のためだけに書かれたものではないか、とさえ思える。息も絶え絶えに舞う白鳥は、今すぐにでも僕の手の届かない所へ行ってしまいそうで、不安に襲われる。
割れんばかりの拍手に、我に返ると、舞台の上では、白鳥ではない彼女が、観衆の声に応えていた。
夜、研究所の僕の部屋で、僕の腕の中におさまった君は、白くて少し透明感のある夜着を着ていた。さっき見た白鳥の姿がだぶって見えて、僕はまた不安に襲われる。思わず、抱きしめる腕に力が入ってしまった。
「そんなにきつく抱いたら苦しいわ。」
君の蒼い瞳が僕を見上げる。
「ごめん。・・・・不安だったんだ。」
「???」
今こうして強く抱きしめていても、君が僕の腕の中から消えてしまいそうで・・・あの、白鳥のように。
「ジョー・・・」
優しく微笑むと、君は唇を重ねてきた。
「大丈夫よ、わたしは、ここにいるわ・・・。」
答えるように、いや、確かめるように、僕は唇を這わせる。君の耳朶に、首すじに、胸に。 君の全身に、僕の痕を刻み込むようにきつく吸い上げる。胸のふくらみをもみしだき、その先端の小さな蕾を頬ばって舌先で転がすと、君の喘ぐ声が漏れ始める。下腹部にある蜜壷はもう、充分過ぎるほどに潤っていて、指でかき混ぜると、クチュクチュと、少し卑猥な音をたてる。
君の甘い声に、自分を押さえきれなくなって、僕は、君の中に割って入る。僕に貫かれる毎に、君はその躯を桜色に染めていく。いいようのない不安をぶつける僕を、君は全身で受け止めてくれているんだね・・・。
「フラン・・・・。ぼくの、フラン・・・。」
「ジョー・・・。」
僕たちは、ほとんど同時に意識を手放した・・・。
絶頂の波が退いた後、君はまた僕を見上げる。
「わたしは、ずっとここにいる。アナタのそばにいるわ。」
「・・・・」
「アナタのほうこそ、一人でどこかへ行かないで・・・。」
「僕も、ここにいる、君のそばに、ずっと・・・」
そう、僕は、どこへも行かない。行かれない。君なしには、僕は生きて行かれないんだから・・・。
2002/09/30