涙 受け止めて

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 こんな夜更けに、誰だろう?
 皆が寝静まっているのを確かめて、私はナイトガウンを羽織っただけの格好でリビングへ向かう。
 電話はバレエ団の友人からだった。息せき切ったその声に、ただならぬものを感じた。
 そ・・・んな・・・・? 嘘でしょう?
 あまりのことに、もうあとは声にならない。
 
 「どうしたの、フラン?」
知らぬ間にジョーが私の後ろに立っていた。
 「なかなか戻ってこないから・・・。・・・?」
 「ジェーンが・・・・亡くなったの・・・・」
 私の声じゃない声が、そう言った。

 翌日、送っていこうというジョーの申し出を断って、私は一人でジェーンのお葬式に参列した。


 ジェーンは、明朗闊達で、同じ女性の私から見ても魅力的なヒトだった。その溌剌とした性格は、彼女の踊りにも如実に表れており、他の人からはよく、私たちの踊りは対照的だと言われていた。その対照的な私たちは不思議とウマが合い、プライベートでも、頻繁に行き来していたし、よく相談にも乗ってもらっていた。私にとっては、よきライバル、よき友人、そしてよき姉のような存在だった。

 1ヶ月前、「一足お先に!!」と言って、同じバレエ団のサトルと結婚した彼女。本当に幸せそうだった。教会のチャペルでの式のあと、祝福の為に集まった大勢の友人たちの中、明らかに私をめがけてブーケを投げてよこした。
 「次はあなたの番よ、フランソワーズ!!」
って、彼女の大声に、思わず赤くなってしまったっけ・・・。

 そういえば、彼女は昨日のレッスンを休んでいた。それも無断で。いつもの彼女なら絶対にそんな事はしない。変だな、とは思っていた。今思うと、その頃貴女はもう、その事故に巻き込まれて、生死の境を彷徨っていたのね。そして・・・。

 お葬式の後、私は一人で町を歩いていた。楽しかったことが走馬灯のように私の心を駆け抜ける。彼女の笑顔は本当に太陽のようだった。周りにいる皆の心を温かにする。そんな、ステキな笑顔だった。
 不思議なことに、涙は出ない。ただ、彼女との懐かしい思い出に心が和み、笑みが零れる。


 研究所のリビングでは、ジョーが一人で雑誌を見ていた。
 「心配・・・したよ。」
優しく抱きしめられたら、涙が溢れてきた。彼女を失った悲しみが押し寄せてきた。
 「泣きたいだけ、泣いていいんだよ。」
その言葉に、私の涙は止まらなくなった。
 「今まで、一人で我慢していたの・・・?」
我慢していたわけじゃない。泣けなかった・・・。
それが、ジョーの顔を見た途端、抱きしめられた瞬間、糸が切れたように・・・。
涙が、止まらない。止められない。

 「思いきり、泣けばいい・・・僕が受け止めてあげるから・・・」
 「・・・・・・抱い・・・て・・・・・」

 ジョーは私を抱き上げ、自分の部屋へ連れて行った。そして、ベッドの上にそうっと下ろすと、私に覆い被さってきた。
 「忘れさせて・・・あげるよ・・・。君が、望むのなら・・・」
 耳元でそう囁くと、唇を重ねる。何時になく優しいキス・・・。
唇を離すと今度は、スルスルと私のドレスを脱がせる。瞬く間に、生まれたままの姿にされてしまう。自分も裸になるとジョーはまた,キスをしてくる。唇を押し開け、舌を差し込んで絡めてくる、濃厚なキス、優しくはあるけれど・・。
 
 ふと気づくと、右手は私の乳房を揉みしだいている。そして、ジョーの唇が、こんどは、もう片方の胸の蕾を捉える。いつもの私ならもうそれだけで、頭の中は真っ白になっている。だけど、今の私は・・・。

 「フラン、今は僕に気持ちを集中して・・・でないと・・・」
そう言いながら、下腹部の茂みに手を伸ばしている。私は、できるだけ、ジョーの動きに
意識を集中させる。

 私が一番敏感なところを、強く、弱く、弄るジョーの指・・・。愛しい、ジョーの全てが狂おしいくらいに・・・。
「くっ・・・・・・」
突然、快感の波が私を押し流す。ジョーから齎される、その波に私は身をまかせる。
「フラン・・・感じて・・・僕が・・・君を・・・愛しているってこと・・・」」
「もっと・・・もっと・・・・感じさせて・・・」そう、すべてを忘れられるくらい。頭の中が、ジョーでいっぱいになるくらい。
 
 と、私の中を指で掻き雑ぜているその少し上に、ジョーの舌が蠢くのを感じる・・・。
「あ・・・・・。」
思わず、溜息が洩れる。ジョーの動きが一段と激しくなる。
知らぬ間に躯が波打っているのがわかる。
「あぁ・・・・ジョー・・・私も・・・愛してるわ・・・」
突然、大きな波が押し寄せ、私は、波間に漂っていた。
 
 ジョーは、一旦私から離れると、今度は、私の腿を広げその中に入ってくる。
「もっと・・・僕を・・・感じて・・・フラン・・・」
押し広げられるのを感じるのと同時に躯が熱くなった。
「あぁっ・・・・ あぁっ・・・」
ジョーの動きに合わせるように声が洩れる。
恥ずかしい・・。でも・・・でも・・・私は、アナタを愛してる。
ジョーが力いっぱい私を貫いてくる・・・。
貫きながら、私の躯のあちこちに、ジョーの痕を刻み込む。
「愛してるよ・・・」
「愛してるわ・・・」
瞳の奥で、何かが弾けて、一気に意識が遠退いた・・・。

 目が醒めると、私はジョーの腕の中にいた。もう、あたりは薄明るい。
不思議な事に胸が潰れるほどの痛みは、もうない。勿論、ジェーンがもう遠い存在になってしまった事は悲しいけれど・・・。
 でも、私は、前に向かって歩いて行く、きっと。そう、ジョーと二人で・・・。
いつか、ジェーンとまた逢う日まで・・・。
今なら、そう、思える。涙を流す事なしに・・・。
自分を偽る事なしに・・・。








                                           2002/09/04