グレイ伯爵のティータイム

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なんとなく気分の良い日。
眩しいほどの日差しがとても心地イイ。
家事も今日は思いの外早く片付いたし、
今日の午後は何をして過ごそうかしら?
私はテラスで海を眺めながら、そんな事に思いを馳せる。
庭の花の手入れ?今朝やったばっかりよね。
買い物?明日ジョ―に連れて行ってもらう約束になっている。

そんな取り止めのないことを考えていたら
「フェ〜〜ックショイ!」
間の抜けたくしゃみが聞こえてきた。
もうっっ!
せっかく、ヒトが寛いでいる時に、
品のない音(声?)で妨害するなんて・・・。
そうは思ったけど、
ジェットは今、花粉症でヒドイ目に遭っている。

「マスクぐらいすればいいのに」そう言ったら、
「日本にゃ、オレさまの高い鼻をカバーしきれるマスクがねぇんだよ。」
なんて、毒づいていたっけ。

サイボーグだから、病気になる事もない。
そんな私の思いを、自分の花粉症でミゴトにひっくり返してくれたジェット。
病気にならない事がいいことなのか、どうなのか、未だにわからないけど、
ジェットの花粉症は、なんだか、私達がまだヒトである証のようで・・・

「マスクが合わないなら鼻に靴下を被せれば・・・」
なぁんて、昨日グレートが言っていたわね、いつものcafeで。
ちょっとブルーになっていた私に、アールグレイの話をしてくれたっけ。
そういえば、あのお店でFortnum&MasonとFAUCHONのアールグレイを買って帰ってきたんだっけ。
今日は、あの紅茶でお茶にしようかしら。
せっかくだから、ケーキでも焼いて・・・。
元気付けてくれたお礼も兼ねて・・・。

冷蔵庫やキャビネットの中身、
それにレシピブックと相談して決めたのは、紅茶のシフォン。
シフォンの中にいれるのはモチロン薫り高いアールグレイ。
今の私の気持ちにぴったり。
もちろん、また喧嘩になったりしないように、
両方の葉を半分づつね。

粉類をふるって、卵黄とサラダ油を混ぜ、細かくした茶葉を入れる
泡立てたメレンゲをさっくりと混ぜ込み、型に流してオーブンで焼く。
何度も作った事のあるケーキだけど、
今日はひとつひとつの手順も新鮮で・・・。
ふと、昨日のグレートの話を思い出してしまうからなのかしら。

オーブンの中で、シフォンが焼きあがっていく様をながめながら、
昨日勃発してしまった「英仏戦争」の事なんか思い出して、思わずクスッと笑ったら、シフォンに添える為のクリームを泡立ててくれていたジョーが怪訝そうな顔をしている。

「ううん、なんでもないのよ。ただね・・・」
「ただ?」
「昨日の事を、思い出しちゃったから。」
昨日、あそこであったこと、私がちょっとブルーになっていた事から
グレートとの「英仏戦争」までのことをジョーに話して聞かせた。
「落ち込んでるのなら、なんでボクに言ってくれないのさ。」ジョーは、最初そんな顔をしていたけれど、話し終わった私に
「そっかぁ、それでこのケーキ焼いているんだ。」
と一言、言っただけだった。

皆が集まり、お茶の時間が始まる。
「おおっ、今日はアールグレイに、紅茶のシフォンか・・・」
それ以上は何も言わなかったけれど、
グレートにも私の気持ちは伝わったみたい。

「これは、どこのアールグレイなんだ?」
味にうるさいアルベルトが、一口紅茶を啜るなり聞いてきた。
「う〜ん、『secretブレンド』、といったところかしら、ね。」
グレートに目配せすると、「うんうん」、といったふうに頷いた。
「別名、『英仏平和条約』っていうところ、でしょうな?」
「おい、いいのかよ。こいつら、なんかヒミツがありそうだぞ。」
って、ジェットがジョーを小突いている。
もちろん、ジョーは取り合わないけど。

「『secretブレンド』、って『cafe secret』の『secret』だろ?
『英仏平和条約』ってのはなんなんだよ。」
ジョーに相手にされないジェットは、今度は私とグレートに絡んでくる。
「『秘すれば花』と言う言葉を知らんのかな?ジェットくん」
「さっさと飲まないとせっかくの紅茶が冷めちゃうわよ。
それでもイイのなら、勝手にどうぞ。」
「な、なんだとぉ!」
「ヒトがせっかく淹れた紅茶が、冷めてもいいってわけ?
あ、それとも私が淹れた紅茶なんて飲めないってコト?」
「ぐだぐだ、うっせぇんだよ。だから気の強えぇ女はイヤなんだ。
ジョー、お前も苦労するよなぁ」
いきなり話をフラれたジョーは、きょとんとしている。
「ちょっと!私のどこが気が強いって言うのよ」
「全部だよ、全部!そんなんじゃ、ヨメの貰い手がなくなるぞ」
「大きなお世話よ。あなたにそんな心配なんかしてもらわなくても結構よ!」
そこまで言って、急に昨日のあの言葉が頭の中に浮かんだ。
<睨み合っているお二人って、心から人間らしくてイイなぁ、なんていう風にも思っちゃって>

「やめましょう、喧嘩するの。私、少し言い過ぎたわ。ごめんなさいジェット。」
「お、おぅ、いいってことよ。」
急に私が謝ったりしたものだから、ジェットったら、狐につままれたような顔をしている。
あのねぇ、私が謝るのってそんなに珍しいコトなわけ?
まぁいいわ。私が言い過ぎたのは、事実なんだし・・・。

「しかしよぉ、急にお前が素直になるなんて、どういう風の吹きまわしなんだ?」
その言葉にちょっとカチンと来たけど、
私は昨日のcafe secretでの出来事を話した。
「それで、『secret ブレンド』か。なるほどな。」
アルベルトは納得したように、また紅茶を一口啜った。
「へっ!何が『secret ブレンド』だよ。もっと、マシな名前つけられねぇのかよ。」
「なんですってぇ!!」
「お、おいおい・・・」「二人とも・・・」
ジョーとアルベルトが割って入ろうとしている。

<睨み合っているお二人って、心から人間らしくてイイなぁ、なんていう風にも思っちゃって>
「プッッ ハハハハハ」
「フフフ・・・・」
「よしましょう、喧嘩」
「それもそうだよな、ハハハ」

私達は、改造されてサイボーグになった。
でも、それは、あくまでも身体だけのコト。心までは改造されてはいない。
心は、人間のまま。
喧嘩もすれば、仲直りもする。泣きもするし、怒りもするし、笑いもする。
そして、恋だって・・・。
たとえ身体は改造されてしまっても、心さえ元のままなら、
私達は「ヒト」でいられる。
そして、私はううん、私達は「ヒト」のままでいたい。
この先、何が起ころうとも。



※このお話は、某所にて、公開されたSound of Wishさんの「グレイ伯爵の憂鬱」とリンクさせて頂いてます。



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                                           2003/03/23