「日本の桜って本当にきれいね」
フランソワーズはうっとりしながら、そう言った。
「初めて、ココの桜を見てから、あれから、何年経ったのかしらね。」
「そうだね。何年経ったんだろう。」
ジョーは自分の傍らを歩いているフランソワーズを、本人にそれとは気づかれないようにチラチラと横目に見ながら、更に桜を見遣る。
研究所から少しだけ離れた海沿いの場所にある小さな公園のココには山桜が10本ほど植えられている。BGの手から逃れて今の場所に研究所を建てたばかりの頃、環境の急変に耐えられず情緒不安定になったフランソワーズをジョーがココに連れてきたのは、ちょうど今のような桜が満開になっている時期だった。
「あの時も、こんな風に満月だったわよね。」
一本の桜の木の幹に寄り掛かりながら、フランソワーズは空を見上げた。
「月が悲しいくらいにきれいで・・・」
(涙が止まらなかったっけ、あの時・・・。
桜の木にもたれて泣き続ける私の背中を、ジョーは優しくさすり続けてくれたっけ・・・。)
そんな辛かった事も懐かしく思い出している自分に、フランソワーズは、改めて時の流れを感じるのだった。
たとえ、肉体の時間は止められようとも、心の中の時間は止まる事はない。それを痛感していた。
あれ以来、平和な時間にこの時期を迎えると、必ず二人はココを訪れていた。
ある時は、戦いで傷付いた心を癒しに。またある時には、互いに生ある事を感謝しに・・・。
そして、この平和な瞬間がいつまでも続く事を祈る為に・・・。
「あのね、ジョー。私ね、今では全ての事に感謝してるのよ。」
フランソワーズは空を見上げたまま、ジョーに話しかけた。
「???」
「そりゃ、つらい事、苦しい事、悲しい事、イロイロな事がたくさんあったけど。」
「でもね。」
フランソワーズは不意に、自分の横に立つジョーの瞳をじっと見つめた。
「それがあったからこそ、今の私がいる。そして、私の側には、ジョー、あなたがいてくれる。」
「だから・・・だから・・・。」
「フラン、その先はボクに言わせて・・・。」
「?」
「ボクも、今では全ての事に感謝してる。キミと同じで、つらい事、苦しい事、悲しい事、イロイロな事がいっぱいあったけど。生まれて来なければ良かったとさえ思った事だってあるけど。でも、ボクは、全ての事に感謝してるんだ。
そして、そして、何よりもキミの存在に感謝してる。キミがいてくれたから、ボクはボクでいられるんだ。」
「ジョー・・・。」
「だからフラン、キミにはこれからもずっと、ボクの側にいて欲しい。
つらい事、苦しい事、悲しい事、イロイロな事が、これからもきっとたくさんあると思う。
だけど、キミと一緒だったら、それを乗り越えられると思うんだ。だから・・・ボクと一緒に歩いて欲しい。」
ふだんは「寡黙」と言う言葉がぴったりくるくらいに口下手なジョーが、彼にしては珍しくコレだけの台詞を口にした事もそうだが、それ以上にその真摯な瞳と口調に、フランソワーズには胸に迫るものがあった。
「ジョー、ありがとう。
あのね・・・私も、あなたの隣を歩いていきたい。これからも、ずっと・・・」
そう言ったフランソワーズの瞳は、希望に満ちていた。
そしてその時、ある予感が二人にはあった・・・。
PortTownでご一緒していました桜花さんのサイト1周年のお祝いに差し上げたものです。
桜花さんゼロナイコンテンツを撤収なさいましたのでこちらに展示させていただくことにしました。
map /
back