とえ身体は作り物でも、心だけは・・・
君を想う心だけは、本物だから・・・
だから・・・・
蒼い薔薇

「まぁ、綺麗!」
リビングのソファで、のお気に入りの花の雑誌を読んでいたフランが声を上げた。
「え?何が・・・」
僕は読みかけの雑誌を脇にやり、隣に座っている彼女の顔を覗き込んだ、

すると、うっとりとした彼女の顔が記事を読み進めていくうちに、曇っていくのがわかった。
「どうしたの、フラン?」
「え?」
まるで、初めて僕が其処にいるのに気がついたかのような顔をして、フランは僕を見上げた。

「蒼い薔薇・・・」
「?」
「蒼い薔薇が、できたんですって。」

白、桃色、紅、黄色・・・薔薇にはそれこそ色取り取りの花が咲くけど、確か、蒼い薔薇だけはなかった筈だ。何年か前に紫掛かった品種は発表されたけど、「蒼」というには程遠かった。

「綺麗だけど・・・でも、悲しい蒼・・・」
そう言って目を伏せる彼女の膝の上で開かれている頁には、まるで、高く澄んだ秋の空を思わせるような、綺麗な蒼い色をした薔薇の花の写真が掲載されていた。

大昔から、人は蒼い薔薇を咲かせようと研究を重ねてきたけれど、様々な色の花を咲かせる薔薇には、蒼い花を咲かせる遺伝子だけはなくて、絶対的に不可能だと言われていた。
だけど、最新の遺伝子工学とその技術は、その不可能を可能にした。
蒼い花の遺伝子を持たない薔薇に他の青い花の遺伝子を組み込んで、人々の昔からの夢を実現したのだ。

「なんだか、この薔薇は私達のようで・・・」

人類の夢を叶える・・・そんな絵空事、綺麗事の甘言で生み出された僕達。
間違った夢の為に、あってはならない夢の為に、僕達は自然の産物から科学の産物にと成り下がった。
そのことを、僕達の中で一番悲しんでいる君には、この蒼い薔薇の話は辛すぎる。
もし、薔薇に心があるなら、薔薇は何と思うのだろうか?

そして、僕は・・・君に何と言ったら良いのだろう?
悲しい瞳をした君に・・・。





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                                                   2003/05/16





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