ひ る
真夏の午後(ひる)の夢

このページの壁紙は自然いっぱいの素材集さんからお借りしています

ボクは、今、この家の真ん中にある部屋のそのまたど真ん中に、大の字に寝転がっている。
築150年というこの家は、当然、萱葺きの屋根で木造建築。天井は高く、中に入っただけで、中の空気がひんやりと感じられる。
家の中は、襖や障子はすべて取り払ってあるので、家中を風が通りぬけていくから、クーラーなんかなくても、かなり涼しい。

家の三方は水田で、北側にはこの辺りの氏神さまをお祀りしている社と、こんもりとした森がある。
どちらも、吹き込んでくる風に天然の涼感を与えてくれる。
そして、北側から風が吹いてくる時は、森の木々の葉の、それ以外の方向から風が吹いてくる時は頭をたれ始めた稲穂が、風にそよぐ音が聞こえてくる。

さらに、森からはウルサイくらいの蝉時雨が・・・。
今の時間帯は、アブラゼミ、ミンミンゼミ、そして、ニ,三日前に加わったツクツクボウシが、鳴いている。
それが、夕方になって日が傾き始めると、少しモノ悲しいヒグラシの声に変わる。

夜になると、今度は水田から蛙の大合唱が聞こえる。
コレを聞くと、ボクはナゼか小学校の時に習った「蛙の歌が聞こえてくるよ」という歌を思い出す。
フランに教えたら、いたくお気に召した様で、今朝も洗濯をしながら、この歌を口ずさんでいた。
「フランス人の私が言うのもヘンだと思うんだけど、この歌ってなんだか、懐かしい気がするのよね。」
フランはそう言ったけれど、ボクはちっともヘンだとは思わない。
ジェットやグレート辺りがそう言ったのなら,きっとお腹を抱えて大笑いしちゃうんだろうけど・・・。

家のすぐ下には河原があって、時折そこで遊んでいる子供達の嬌声が風に乗って聞こえてくる。
昨日、フランと散歩がてらに行ってみたら、その時も近所の子供達が遊びに来ていて、代わる代わる橋の上から川に飛びこんでいた。
橋までの高さは3,4メートルくらいになるのかなぁ。
手摺りの上に立つと、手摺りの高さと自分の身長がプラスされるから、結構な高さになる。
子供達があんまり楽しそうだったんで、仲間に入れもらった。
Tシャツをフランに預け、はいて来た短パン1枚で、川に飛び込む、この爽快感。
「川遊び、よくぞ男に生まれけり」なんて句がなかったっけ?
帰りは、モチロン(ナンの用意もして来なかったから)ビショビショの濡れ鼠、フランに呆れ返られてしまった。

いくらココが静かといっても、音が全くないわけじゃない。
むしろ、計測して数値を出してみたら、結構な値が出てくるんだろうけど、都会の喧騒に比べたら、なんと静かで長閑なことだろう。
この、賑やかな静寂を味わいながら、ココでの生活を始めて、もう、10日になる。

なぜ、ボクらがココに来ているかって?
チームメイトの一人が、親孝行をしようと両親を海外旅行に誘ったのが今から一ヶ月くらい前の事。
だけど、昔気質の彼の両親が長期間家を無人にするのを嫌って申し出を断ろうとした為、彼のご両親とも面識のあったボクが留守番役を買って出たというわけなんだ。
ボクとフランが到着した翌日、彼らは親子三人、大喜びで発って行った。

ココでの暮らしは、かなり単調だけど、1日として退屈したことはない。
毎日が発見と驚きの連続だ。
それは、花や昆虫など生き物の営みに関してだったり、空に浮かぶ雲やそよぐ風に関してだったりする。
もちろん、フランのちょっとした表情や仕草にも発見はあったりして・・・。

バサッッ
何かが顔の上に降ってきて、ボクはいきなりお日様の匂いに包まれた。
「???」
事態が理解できずにいると、ボクの横で誰かが震えている気配がする。

「空の色と風の匂いが急に変わってきたから、洗濯物を取りこみに行ったの。
そしたら、雷の音がしてきて・・・」
顔の上の洗濯物を払いのけて飛び起きたボクの胸に顔を埋める様にして、フランはまだ震えながらそう言った。

突然、稲光が光ったかと思うと、大きな雷鳴が轟いた。
ココは山間部だから、雷鳴が反響して聞こえる。
ボクにさえ、かなりの大音響なんだから、聴覚を強化されているフランには耐え難いほどなんだろう。

「夕立だよ。雷と雨はすぐに通りすぎるさ。」
彼女を安心させようとそう言った。
「大丈夫。ボクがそばにいるから・・・」
ボクの胸でまだ震えているフランが一層愛しく思えて、彼女の肩を抱く手に思わず力を込めてしまった・・・

**********・**********・*********・**********・**********・**********

「ったくよーーー。枕を抱きしめて吐くセリフかよ!!」
突然、頭の上で、ボクのものでも、フランのものでもない声がして、ボクは目が覚めた。

「あれ?ジェット・・・。いつココへ来たの?」
「あれ?じゃねーよ。オレはお前らが東北の片田舎に留守番に行っちまう前から、ココに来てたぞ」
「え?あ、ココ、研究所・・・なん・・だ・・・。」

どうやらボクは、研究所のリビングでうたた寝していたらしい。
「大丈夫、ボクがそばにいるから・・・って、お前、誰に言ってたんだよ!」
ジェットに羽交い締めにされ頭をグチャグチャに掻き混ぜられた。
「いいじゃないか、誰にだって!それよりも、離せよ、暑苦しい・・・。」
「ヤダ。誰に言ってたのか白状するまで離さねー。」
「だれが、君になんか話すもんか!」

そうは言ったものの、一番聞かれちゃイケナイヤツに聞かれちゃったらしい。
ジェットって、こういう時、しつっこいからな・・・。
反射的に加速装置のスイッチを入れないように気を付けながら、ボクはジェットと格闘を続けた・・・。





                   map / menu