《act 1》
この時期の低気圧がもたらす吹き降りの雨風を、MayStorm(五月の嵐)という。
そんな嵐の過ぎ去った後、フランソワーズはいつものとおり家事に追われていた。
「やっと、嵐が治まったんだもの。さっさと済ませちゃわなくっちゃ・・・」
そう言って朝から、目が回るような勢いで家事をこなしていく。
そんな彼女を手伝うべく、ジョーがリビングにやってくると、もうすでにテラスにいる彼女の傍らにはアルベルトがいて洗濯物を干す手伝いをしている様子だった。
しかも、それまで談笑しながらだったのが、ジョーの気配を感じるとピタリとそれをやめ、彼女はジョーを振り返った。
「どうしたの、ジョー?何か用?」
「え?あ・・・忙しそうだから手伝おうと思ってさ。」
なぜか、どぎまぎしながら答えるジョーに、フランソワーズは
「あら、ありがとう。でも、大丈夫、アルベルトが手伝ってくれているし・・・」
と、さらりと断る。
「そう・・・」
なぜか、ひどく居心地の悪い思いを抱えて、ジョーは足早にその場を立ち去った。
ジョーが立ち去ったのを確認するとアルベルトが
「いいのか?」
と、フランソワーズに聞く。
「だって、しかたないでしょ?」
「まぁ、そりゃぁそうだが・・・」
そう言ってまた、ナニやら会話を始める。
その様子を2階の自室からジョーが怪訝そうに見守っているとも知らずに・・・。
昼食後、さっきの不安を消去ろうと、ジョーはフランソワーズをドライブに誘おうとした。
すると、彼女は
「ごめんなさい、私、用事があるから出かけてくるわ・・・。」
と言って、「それなら、ボクが送っていくから」と言おうとしたジョーを置き去りにするかのように
走り去って行ってしまった。
道路に面した窓に走り寄ると、フランソワーズがアルベルトの運転する車の助手席に乗っているのが見えた。
ジョーがふてくされた表情で自室に戻ろうとすると、ジェットがニヤニヤ笑いながら呼びとめる。
「ジョー、お前『MayStormDay』って知っているか?」
唐突なその問いに面食らいはしたが、ジェットに関してはよくあることなので、「また始まったか」と思いながら答える。
「MayStormは5月の嵐、だろ?だから昨日みたいな天気の日の事を言うんだろ?」
それくらいのこと知ってると言わんばかりの顔で答えるジョーに
「チッチッチッ」
と、いかにもアメリカンらしく指を口の前でふりながら、ジェットは否定する。
「ちがうんだなぁ・・・。よぉっく聞け。
MayStormDayとは、バレンタインデイから88日目で、別れ話を切り出す絶好の日、なんだってよ!ちなみに、今日、5月13日がそのMayStormDayなんだとさ。」
「ジェット、ナニが言いたいんだよ!!!」
いつになく、声を荒げるジョーにいささかも怯むことなく、ジェットは
「別に、なんでもないさ・・・」
と口笛を吹きながら、再びやりかけのゲームに没頭し始めた。
自室に戻ったジョーは、ジャケットと車のカギをひっ掴むと、リビングでまだゲームに興じているジェットに
「出かけてくる。」
と言い捨てて、車を出した。
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2003/5/13