<Scene 3>

8月下旬某日

今日は、昼過ぎから、ずっとキッチンに篭っている。
昨日夕食で食べた「ほうとう」が、フランはイタクお気に召した様で、研究所に帰ったらみんなにも食べさせたいからと言って、美津子さんに作り方を教わっているんだ。

前にも言ったかも知れないが、美津子さんは、料理と人をもてなす事が大好きだ。その凝りようもハンパじゃない。「ほうとう」を始め麺類は、ほとんどの場合、手打ちなんだ。
で、今日は、「ほうとう」の作り方の講習会と言うわけだ。といっても、生徒はフランとボクの二人だけだけどね・・・。

つわりが治まって、食欲が戻ったフランは、ここで出される料理にも興味を持ち始めた。とりわけ、美津子さんが作ってくれる和食、それもお袋の味と言われるような料理にご執心なんだ。メモを片手に、美津子さんに作り方を聞くのも、1度や2度の事じゃない。その度に、いやな顔ヒトツせずに、むしろ喜んで教えてくれる美津子さんには、本当に頭が下がる思いだ。

「もっと、ちゃんと腰に力を入れて、そう、テーブルに叩きつけてくださいね・・・。」
美津子さんは、意外とキビシイ先生だったりする。ボクなんか、さっきから同じ事を何回も注意されている。
「麺作り」と言う仕事は、結構力仕事なんだ。腰や下腹に思いの他力が入る。だから、フランにはさせられないので、ボクが代わりにやっているというわけなんだけど・・・。コレがなかなか疲れる仕事なんだよね。どうも、普段使っていない筋肉を使うようで、もう、汗だくになるし、ヘトヘトだ。いい加減疲れてきた頃に、「ほうとう」の麺は出来あがり、今度はフランに交代する事になった。

一緒に煮込む具材を切り、煮込む。そして、ボクが「麺」の形にしておいたモノを、手早く茹で、煮込んでいる鍋に入れる。ミソやら何やらで調味をして出来あがり。
簡単に言うと、こんな手順なんだけど、出来上がるまでには、かなりの労力を要する。「料理と言うモノは、愛情と、情熱と、手間が必要なんだ」って事は、ドルフィン号に乗っていた頃に、張大人が言っていたコトなんだけど、今ここで、ソレを痛感させられた思いだ。

試食も兼ねて、今日の夕食はボクらの合作の「ほうとう」という事になっていた。みんなに「美味しい」と誉められて(おだてられて?)ボクのあの苦労が報われたような、そんな気になってしまった。きっと、フランや張大人が、毎日料理に精を出しているのも、こんな気持になれるからなのかな・・・。ボクは二人の気持ちがなんとなくわかったような気がした。

え?ああ、なんで、下旬とはいえ8月に「ほうとう」のような熱い料理なんだって?
ここ、Y高原ってかなり標高の高い場所なんだ。お盆を過ぎると、昼間は暑くっても夜はかなり涼しくなってくる。加えて今年は冷夏だっただろ?
昨日は、なんだか肌寒くって、皆揃って「温かい物が食べたいな・・・」っていう気分になってしまったんだ。
それで、昨日の夕食は、急遽「ほうとう」になってしまったんだ。

「ほうとう」ってイロイロな野菜が入っているし、体が温まるから、妊婦のフランにはうってつけだろ?
オマケに具材の野菜は、よく煮込んであるから、潰してあげればイワンの離乳食にも使えるしさ・・・。
一石二鳥ってわけさ・・・。

それにしても、今日が雨降りでよかったよ・・・。
さっきも言った通り、昼間はまだまだ暑くなる事が多いんだ。暑い日に汗だくになって麺を打って、その後の食事が熱い「ほうとう」だなんて・・・。ちょっとね・・・。あはは。





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                                                  2003/10/30

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