「うん?
ちょっと、ジョー、ナニよこの傷!!」
甘〜いムードの中、ジョーの腕の中におさまっていたフランソワーズは声を上げた。
といっても、通常のラブシーンには、とうてい相応しくない声だった。
「え?なに、フラン・・・。」
「この、肩から背中にかけての引っ掻き傷よ!ジョ〜〜、あなたって人は・・・」
「ご、誤解だよ!」
「ナニがゴカイよ!ここは2階よ!」
「そりゃ、そうだけど・・・。って、そうじゃないよ。フランが誤解しているって言ってるんだよ。」
「誤解なもんですか!」
「絶対に誤解してるよ!」
「じゃぁ、あなたの言い訳を聞かせてもらおうじゃないの!」
ジョーは昼頃、研究所の近くを散歩して帰って来た時、研究所の裏手にある高い木の上から仔猫が落ちてくるのに遭遇した。かなり高い枝から、悲鳴(?)を上げながら落下してくるまだ幼い仔猫は、とうてい着地の体勢をとれそうにない。そこで、ジョーは落下予想地点に加速して移動するとミゴトに仔猫をキャッチしたのだ。
コレで大丈夫と、ジョーが一安心した瞬間、仔猫は思いっきり、ジョーを引っ掻いて逃げ去った。
仔猫にしてみれば、いくら自分が落下している最中とは言え、突然に現れた正体不明の巨大な生物(ジョーのことである)に身柄を拘束されたのだから、一撃を加えて敵(もちろんコレもジョーのこと)が怯んだ隙に逃げ出すのは、至極当然なコトなわけで・・・。
当然、ジョーにはそんな仔猫の事情なんかわかるわけがないから、しばし呆然として仔猫の後姿を見送っていたのだったが・・・。
そんなコトをフランソワーズのあまりの剣幕に気圧されて、しどろもどろになりながらも、ジョーは懸命に説明を試みた。
「信じられないわ!どうせ、その仔猫って、爪に紅いマニキュアを塗ってるんじゃなくって?」
「え???」
「あなた、ゆうべ帰りが遅かったものね、っていうかぁ、朝帰りだったじゃない!仔猫ちゃんと遭遇したのも、今日のお昼頃じゃなくって、昨夜、夜遅くだったんじゃないの?」
「ナニを言ってるんだよ、フラン。爪にマニキュアを塗った仔猫なんかいるわけないし、僕が子猫を助けたのは今日のお昼頃だよ!」
ジョーのこのイイグサには、ちょいとばかり調子が狂ったフランソワーズだが、ここで、笑い出すわけにもいかず、一生懸命に怒っているフリをして続けた。
「わかるもんですか!
もう、いいわよ。言い訳なんかしなくっても。私、今晩は自分の部屋で寝るから!」
「そ、そんなぁ、フラン・・・」
「おやすみなさい。」
「ふ・・・ふらんそわぁずぅ〜」
くるりと背を向けたフランソワーズは、かすかに肩を震わせている・・・。
その様子を見て取ったジョーは、自分が泣かせたのだと思って肩から手を回し後ろから抱きしめた・・・。
「ぷ・・・・」
「へ?????」
ナニがナンだかさっぱりワケがわからず、間の抜けた顔をしているジョーに、フランソワーズは堰を切ったように笑い出す。
「どうしたの?なにがオカシイの、フラン・・・?」
「や〜めた!」
「???」
「本当はね、知ってたのよ、その傷がついたわけ。」
実は、フランソワーズは、ジョーが発見する少し前から件の仔猫が木の上で鳴いているのを知っていた。どうしようかと考えあぐねた末、自分で助けに行くことにしたその矢先に、ジョーが帰って来て、先ほど説明した場面展開となったのだ。
つまり、フランソワーズは、ジョーが仔猫に引っ掻かれて呆然としていたコトまでちゃんと知っていたのだ。
「ひどいよ、フラン・・・」
コトの次第を知らされたジョーが半分涙目になりながら、それでも一応抗議すると、
「だって、お仕置きですもん。」
フランソワーズはコトもなげにそう言い放った。
「え?」
「昨日の夕ご飯、あなたと二人きりだったから、あなたの好物をいっぱい作ったのに・・・。遅くなるって電話をよこしたきり、帰ってこないんですもん。出かける前には『早く帰るよ』って言ってたのに・・・。」
「だから、何度も謝っただろ?ごめんって・・・」
「私、待ってたのよ、朝まで、ずっと寝ないで・・・」
「ごめん・・・電話、できなかったんだよ、したくっても・・・。」
「知りません!」
「そりゃないよ・・・。キミだって知ってるだろ?ボクがお酒に弱いこと。チーフの佐々木さんに飲まされちゃったんだよ。しこたま飲まされちゃってさ、酔い潰されちゃったんだよ。気がついたら、朝だったんだ。」
ぷいと後ろを向いてしまったフランソワーズの背中に向かって、ジョーは必死に訴える。
「ね、今度埋め合わせするからさ、だから、キゲン直してよ、ねぇ、フラン〜」
「ホント?埋め合わせしてくれるの?」
くるりと振向いたフランソワーズの顔が、こぼれんばかりの笑顔だったのを見て、ジョーはもしかしてハメられたか?と一瞬思った。
(でも、ま、いっかぁ〜。スネた顔のフランも可愛いけど、やっぱり、フランは笑っているのが一番♪)
「じゃ、明日、映画見に行きましょ。で、○○○で、お昼を食べて、ああ、ショッピングにも行きたいわね。それから・・・」
「ええっっ、まだあるの?・・・」
本当に、フランって、猫の目みたいにくるくると表情が変るよな。さっきまであんなに怒ってたっていうのにさ。
でも、ボクの大切なカワイイ仔猫は、マニキュアなんか塗っていないし、そんなに爪なんか伸ばしちゃいない。ただ、時々、今みたいにボクの事を引っ掻いてくれるけどね・・・。
そんなことを考えながら、ジョーはフランソワーズと自分の明日の予定を必死に覚えこもうとするのだった・・・。
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2004/04/24