ESCAPADE

このページの壁紙はclefさんからお借りしました

本当に、どうしちゃったんだろう?
朝から何にもやる気が起きない。
別に具合が悪いわけじゃない。
それでも、仕方無しに朝食の用意をして、
花に水をやって・・・
今、溜息混じりに洗濯物を洗濯機に放り込んだところ。
いつもだと、こんなにイイ天気なら
家事も楽しくなっちゃうのに・・・。

そんなことを考えながら、起きてきた皆と朝食をとり、
洗い上がった洗濯物を干すために テラスに出た。

立春を過ぎてからもう3日。
「暦の上では、もう春なんだよ。」
ジョーがそう教えてくれたのはおとといの夜。

あの時は信じられなかったけど(だって、とっても寒い日が続いていたんだもの)、
でも、今日なら信じられるわ。
日差しがとっても暖かい。
んんーーーっ!!
伸びをすると、胸の中に暖かい春の空気を吸い込んだ気がする。
そうだ!こんな時は・・・


私のとっておきの場所。
研究所の北側にある大きな樹。

「この樹はケヤキというんだ。」
いつだったか、ジェロニモが教えてくれたっけ。
とても、とても大きな樹。
なんだか、私達のことを見守っていてくれるような、
そんな、見ているだけでも心が安らぐ樹。
いつもなら、この樹の根元に座って日向ぼっこをするんだけど、
今日は・・・♪


フフフ、やっぱり思っていた通り。
ここからなら、能力(ちから)を使わなくっても、遠くまで見渡せる。

目の前に広がる海。
春の日差しが反射してキラキラ光っている。
ここ2,3日は強風のお陰で、あんなに荒れ狂っていたのに、
今日はこんなに穏やかで・・・。

この海が私の故郷まで繋がっているのね・・・。
もっとも、この海は太平洋だから、ちょっと、ううん、だいぶ遠回りになってしまうけど・・・。


小さい頃、私はかなりのお転婆だった。
それは今でも続いているけど・・・。

自宅のあるアパルトマンの屋根に登って
そのまま昼寝をしてしまったこともある。
ヴァカンスで行った湖畔の貸別荘で、
近くの林の中に迷い込んでしまったこともあったけ・・・。
この時、家を探そうと木に登って辺りを見まわしているところを
探しに来たお兄ちゃんに見つけられた。

あの時は、一人で下りられなくなって、
おにいちゃんに背負われて下りたんだっけ・・・

それでも、なぜだか、私は高いところが大好きだ。
高いところに登って周囲を見渡していると、心が落ち着く。
次第に気分が晴れてくるし、出来なかった事が出来そうに思えてくる。

友達とケンカした時は、学校の屋上で泣いていたし、
バレエのコンクールの直前は、会場のホールの最上階の非常階段から、外の景色を眺めていた。
ママンに叱られた時は、公園のジャングルジムのてっぺんで、拗ねていたっけ。


「煙とナントカは高いところが好きなんだって・・・」
いつだったか、
研究所の屋根に登ってボンヤリしているところを見つけられちゃった時、
ジョーは笑いながらそう言った。

モチロン、「こんな危ないことしちゃダメ」ってクギを刺されたけど。
「それにしてもさ、キミって、案外お転婆なんだね。」
言いながら、また笑っていた。

「そう言えば、男の子とよくケンカしたって、言っていたっけ・・・」
もうっっ!!ジョーったらヘンなことばっかり良く覚えているんだから・・・。
その話をした時、私を庇ってくれたジョーが、なんだかお兄ちゃんみたいに思えたんだっけ。
お兄ちゃん・・・会いたいな・・・


「・・・フラン・・・」
え・・・?お兄ちゃん?
「捜したよ・・・」

後ろから、聞こえた声に振りかえると、私がいるのより少し上の枝にジョーが腰かけていた。
「やだ・・・。いつからそこにいたの?」
「たった今。さっきから、キミを捜していたの、気がつかなかったの?」
???私、全然気づかなかった。
「朝から様子がヘンだったし、洗濯物は干している途中だったしさ、」
!!!そうだったわ・・・、洗濯物!
「あ、洗濯物なら僕が干しておいたから・・・。」
「あ・・・ありがとう。」
「でさ、家中捜してもいないから、屋根も登ってみた・・・。
そこなんじゃないかって気がしたから・・・。でもハズレだった。」
「じゃぁ、どうして、ここにいるってわかったの?」
「キミを捜してこの樹の下まで来たら、頭の上にキミのサンダルが降ってきてさ、」
「あっ・・・」
足許を見ると確かに、右のサンダルがない・・・。

「こんな危ない事しちゃダメだって、言っただろ?」
少し怒ったような声にびっくりしたけど、瞳はいつものように優しかった。
ごめんなさい。心配・・・させちゃったみたいね・・・。

「もう、気が済んだ?」
「え?わかってたの?(私がココにいる理由・・・)」
「うん、なんとなくね・・・。
だってさ、フランは気が滅入ったりすると、こういう高いところにいるだろ?屋根とか、屋上とかさ。」

「屋根」という言葉をちょっと強調するあたりが、小憎らしい気もするけど。

「知ってたの?」
「ああ。でも、まさか、木に登るとはね・・・アハハハ」
「イジワル・・・」
「そう拗ねていないで・・・。お昼ご飯食べたら、ドライブにでも行こう?
キミの行きたいところへさ。」
「ホント?」
「うん。さぁ、下りるよ。」


ジョーはひょいっと隣りに飛び移ってくると、私を抱えて飛び降りた。
さっきまでいた枝を下から見上げると、結構高いところだった。

「あんな高いところから飛び降りるなんて、随分と無茶するわね・・・。」
思わずそう言うと、
「無茶なのはキミの方だよ。よく、あんなところまで登れたね。
やっぱり、キミはお転婆だ。」
と切り返されてしまった。

「そうよ、私のお転婆は子供の頃からだもの・・・。」
何かある度に、こうやってescapadeしていたもの・・・。




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                       2003/02/04