一難去って・・・

このページの素材は7Styleさんからお借りしました

「え?わらひは、酔ってなんかいらいわよ。
だーれがそんらころを言ってんのよ〜。
怒っれなんらもいませんよ〜。
もう、知らないんらもんね〜。ジョーなんか、好きにすればいいのら〜。ひくっっ・・・。
おおい。ジェッローーー、お酒ないわよ〜。ジャンっっジャン、持っれこいーーー。」

夜9時頃、ギルモア研究所のリビングに罵声が響き渡る。
まだそんなに遅くない時間。いつもならば、リビングには、数人のメンバーが夕食を終え一時の団欒、または晩酌タイムとなるのだが、今日に限っては、酔っ払いと化したフランソワーズとその僕(しもべ)と化したジェットしかいないのだった。

(ちくしょーー!みんな上手い事逃げやがって・・・。
それに、ジョー!俺様がこんな目に遭っているのも、みーんな、お前のせいなんだかんな!覚えてろよ。この貸しはきっちりと返してもらうからな。)



クリスマスを数日後に控えたとある日。
クリスマスイブと当日はメンバー全員で毎年恒例のクリスマスパーティーという名の大宴会が催されることになっているので、この日は嵐の前の静けさ(?)を味わうために、ジョーとフランソワーズは水入らずでデート(ま、デートが水入らずなのは当たり前だが)に出かける予定だったのだ。

それが・・・
今朝になってジョーは急に用事ができたといい、そそくさと1人で出かけてしまい、残されたフランソワーズがこのようなありまさになっていると言うわけである。



「ジェッロ、何やっれンのよ。ワインがないっれ言ってるじゃないのぉ〜。早く、持っれきれよ〜。」
いつものフランソワーズからは、とうてい想像できないような怒声が飛ぶ。しかも、その怒声は酔いの為に呂律が回らなくなってから、かなり久しい。

「へいへい・・・。只今・・・。」
(く・・・くそ。ジョー、この貸しは高くつくぞ。逃げんなよ〜(涙))
心の中で、この場にいない、そして、自分が遭遇している災難の元凶であるジョーに対してありったけの恨みを込めて悪態をつく。
(一体、今度は何をやりゃがったんだよ。フランソワーズに扱き使われるこっちの身にもなれってんだ。)

ジェットはキッチンの奥から続く地下にあるワインセラーに足を踏み入れる。広さにして10畳ほどの広さであるが、ワイン通(いや、ただの酒好き?)のメンバーの為に、ギルモアが増設したのだった。一応「ワインセラー」と銘打ってあるが、実際にはありとあらゆる種類の酒がここには保管されているのだった。

(あれだけ酔ってりゃ、もうワインの味なんてわかりゃしねぇっつーの。テキトーに見繕って・・・と。またすぐに取りに来させられるんじゃかなわねーからな。)と手近にあったワインを赤・白・ロゼと取り混ぜて5,6本抱えてキッチンに戻り、パントリーから酒の肴用に常備されているモノを適当に袋ごと抱え、リビングのフランソワーズのもとへと運んだ。

「なに、やっれんのよ〜。遅いわよ、ジェッロォ〜・・・。」
彼女にしてみればギロっとにらんだつもりであろうが、もはやその視線には、今までに体内に摂取された相当量のアルコールの為に力は籠もっておらず、ただ潤んだ瞳でジ・・・と見つめられたようにしか、ジェットには思えない。

「い・・・色っぺ〜///」思わず口からそんな言葉が出そうになって、ジェットは慌てた。「俺様としたことが、フランソワーズの流し目なんかでぽ〜っとしちゃって・・・。ヤキが回ってきたか?」そう考えて、頭の中の煩悩を振り払うかのように首をブンブンと振った。

彼にしてみれば、フランソワーズは一番最初に対面した「仲間」であり、後に出会ったアルベルトと共に彼女がいたからこそ辛い時期をも乗り越えられた言わば「精神的支え」のような存在(それは、フランソワーズが単に女性だったからと言う次元の話ではなく、)であり、平穏な今の生活を手に入れてからと言うものは、時々冗談を言い合ってはじゃれ合う仲の良い「妹」のような存在だった。

その「かけがえのない仲間」であり、「大切な精神的支え」であり、さらに「仲の良い妹」のような存在であるフランソワーズに煩悩たっぷりに「色っぺ〜」などと、迂闊にも思ってしまった自分がとても不純な人間のように思えて、それでもそう思ったことを認めるのが癪に障るので、「ヤキが回ったか・・・」などと考えているジェットだった。

「何やっれンの?ジェッロ〜」
さっきジェットが地下のワインセラーから運んで来たばかりのワインの栓を抜き、手酌でグビグビと物凄い勢いで飲み始めたフランソワーズは怪訝そうな顔でジェットを見た。

「え?いや、何も・・・。
そんなことよりも、ささ、グッと呑め呑め。」
(呑んで酔っ払ってとっとと寝ちまえ。
何があったか知らねえが、寝ちまって忘れちまうのが一番だ。その様子じゃぁ、どうせロクな事じゃあるめぇ。)
本心を隠しながら、ジェットはフランソワーズにお酌をする。

何気なくフランソワーズの胸元を見たジェット、普通ならばどきっとするはずの光景なのだが、彼はギョッとした。
(お・・・おい、始まっちまったようだゾ)

すでにグデングデンの状態のフランソワーズ。アルコールによって頬がバラ色に染まっているなどというナマ易しいものではなく、外部から見えている素肌全部がバラ色に染まっているのだ。

そして、その胸元は、先程まではちゃんとボタンがかけられた状態だったはずなのだが、いつの間にか第2ボタンまで開いている。
着ているのがシャツであればまだ良かったのだが、生憎と少々襟ぐりが大きく開いたブラウスを着ていたものだから、第2ボタンが開いているだけでもかなりしどけない格好になっている・・・。
しかも、酔っ払っているのだから、当然、座ってはいても、上半身がフラフラと揺れる。
それに伴って、胸の谷間が見え隠れ・・・と、普段のジェットならば文句なしにオイシイ状況である。

しかし、この場面をいきなりジョーが目にしたら・・・それは考えるだけでもオソロシイ。
まさか、殺しはしないだろうけど、ボコボコにされることは覚悟しなくてはなるまい・・・。

(コイツの厄介な酒癖を知っているのは、俺とアルベルト。ジョーも・・・おそらくはな。
問題は他のヤツラがこの場面に遭遇したら、なんと思うか・・・。
もっとも、フランに扱き使われるのを恐れてソソクサと逃げ出したヤツラが、今頃のこのことココに来る事はあるめえが・・・。)

「うぅ〜〜ん、暑いわ。
ジェッロォ〜、エアコン止めれよ〜〜」
「エアコンは今朝壊れちまって、明日ピュンマが部品を買いに行って直してくれることになってただろうが。」
「え゛〜〜、そうらったっけ〜???」

(え゛〜〜、じゃねえんだよ。ったくもう、そんな事も忘れっちまったのかよ。ざまぁねえな。
まぁ、ソコがコイツらしいと、思えなくもねえんだけどよ。)

「なら・・・・・・・・・」
とフランソワーズは第3ボタンに手をかけ始める。が、すでにグデングデンに酔っ払った状態の彼女の指ではなかなかボタンが外せない。

(お・・・おいおい、冗談じゃねぇぞ。よ・・・よせ、よせってば。こんな所をジョーにでも見られた日にゃぁ、俺、いくつ命があったって足りゃしねぇってーの。いっそ、当身でも食らわせて眠らせッちまおうか・・・。)

ジェットがそんな事を考え始めた時、バタンとドアが開いて誰かがリビングに入ってきた。
「おお、やっと帰ってきたのかよ〜」
ジェットがそう言おうとした瞬間、ソレよりも一瞬早く、
「あぁ〜ら、どちら様れしょ〜かぁ?」
フランソワーズが素っ頓狂な声をあげた。

「「へ???」」
と、もっと素っ頓狂な男二人の声。

(どちら様って、ジョーじゃねぇかよ。アイツがいねえってんで、今まで大荒れに荒れていたくせによ!!)
などと思ってはいても、そんな事はおくびにも出さずに
「まぁ、ジョー、とにかくココに座れや・・・」」
とにかく、自分がこの場にいない方がきっと、いや絶対に!、事態が丸く収まるような気がして、そう言いながらジェットはソファから腰を上げようとした・・・。
がその瞬間、とつもなく大きな下向きの力が働いて(・・・というか、フランソワーズに手首を引っ張られただけの事なのだが)ジェットは再びソファに着地してしまった。

「あのねぇ〜、わらしは今ジェッロと美味しくお酒を飲んでいるところなのよぉ〜。おにーさん、ジャマしないれくんない?」
酒のせいですっかり目が座ったフランソワーズは、ちらりと冷たい一瞥をジョ−に向かって投げつける。
「・・・・・・・・・・」
ジョーは呆けたように二人を見たまま、つっ立っているだけである。

(お、おい、ばかフランソワーズ、よせ!)
フランソワーズがジョーにさらに見せ付けるかのようにジェットにしなだれかかる。
いつの間にかブラウスの第3ボタンまで開いていて、胸元の白い肌がちらりとジェットの視界に入るものだから、ジェットとしては気が気ではない。
いつもなら「ラッキ〜♪」なんて思ってしまうにしても、今のこの状況下においては、さしものジェットもそういう気分にはなれないのだ。
それでも、慌てふためくのもなんだかみっともない気がして、ありったけの理性と演技力を総動員して平静を装ってみたりするのだった。

一方、ジョーとしてみたら、自分の最愛の女性がいくら生死を共にする仲間とはいえ自分以外の他の男に、見るからにしどけない格好でしなだれかかるのを見ていて面白いわけがない。
しかも、その原因を作ったのが自分であることを充分過ぎるほどにわかっているので、その胸中はかなり複雑である。

そんな男2人を尻目に
「あ゛〜〜、暑い。なんれ、このボタンはずれないのかしらぁ〜。」
と、フランソワーズはまだ第3ボタンを外そうとしている。

「ふ・・・ふらん、」
「フラン、なんれ気安く呼ばないれよ!!」
「理由(わけ)を聞いてよ!」
「知らないわ。大方、どこぞの巨乳れ黒目がちのきれーなお姉さんから呼び出しのメールれも入ったんれしょ。それれ、私との約束なんか忘れちゃっれフラフラ〜〜って行っちゃったんだわ。」
「フラン、違うってば!」
「えー えー、違うんれしょうよ。今日、わらしとれかける約束なんれしれないっれ・・・そーゆーんれしょう?」
「そうじゃなくって!」
「んーーー、暑い!」

酔いが回って思うように動かない指でブラウスの第三ボタンを外そうとしながら、ジョーに文句を言い、さらに時折飲みかけのワインも口元に運んでいるのだから、普段の時ならイザ知らず、今のフランソワーズはかなり忙しい。
そのうちに手元が狂って、ワインをブラウスの胸元に零してしまった。

「「「あ!」」」

フランソワーズが着ているお気に入りの白いブラウスの胸元にあっと言う間にワインの赤いしみが広がっていく。

「あ〜あ、やっちまったよ。」
とジェットが思っているその間に、ジョーはフランソワーズを抱きかかえて加速装置のスイッチを入れた。
もちろん、最低速。ブラウスを燃やさない程度の速度だ。

二日酔いの最中のフランソワーズはいつも機嫌が悪い。
楽しく飲んだあとでもそうなのだから、今日みたいに不機嫌の塊みたいになっていた時なら尚の事だ。
しかも彼女がこんなになるまで酔っ払った原因が自分で、その上お気に入りのブラウスを燃やしちゃったのも自分である、なんて事になったら・・・考えただけでもゾっとする。
いや、燃やさないまでも、ワインのしみだけでもかなりヤバイのだ。

こうなると、最強のサイボーグも形無し。ただの1人の男になってしまう。
かくして、邸内ではご法度の加速装置使用と相成ったわけである。

「どうせ、加速装置を使ったのなんて、今の状態のフランにはわかるわけないし。
それよりもブラウスのワインのしみの方が問題だよ。ちゃんと落ちなかったら、フラン怖いもん・・・」(←おいおい (^^; )

さて、リビングに1人取り残されたジェット。
我に返ると、直前まで自分を悩ませていた2人の姿が急に消えたので
「ああ、ジョーのヤツ、加速装置を使いやがったな。」
と納得した。

どうせなら、もっと早くに加速装置を使えっつーの。
俺は散々フランソワーズの愚痴に付き合わされて、一分一秒でも早く解放されたかったんだからな。

さぁて・・・・。
このフランソワーズの「1人大宴会」の後始末、どうするんだ???
朝になって他のヤツラが降りてきてこの有様を見たらどうなるのか・・・。
きっと、片づけをしなかったって、俺を責めるんだろうな・・・


一難去ってまた一難・・・。
Oh my God!!
と普段は不信心者のジェットがこう呟いたかは定かではない・・・。





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                                  2006/12/23