It's a Rainy day.

このページの壁紙はSalon de Rubyさんからお借りしました

梅雨に入ってもう何日たったのかしらね。
梅雨の晴れ間と言うのには程遠いけど、今日は本当に久しぶりに朝から雨が降っていない。
皆、待ってましたとばかりに、出かけてしまっていて、残っているのは博士とイワンと私だけ。
こんな、静かな状況もたまにはいいものね。
そう思いながら、リビングで読みたかった雑誌を読み漁る。
ファッション雑誌。
ガーデニングの情報誌。
食べ歩きガイド・・・etc
「ジョーはどうしてるかしらね?」
そんなことを考えながら、
ふと、外を見遣ると、何時の間にか雨が降り出している。
音を立てずにシトシトと降る、細かい雨。


「小糠雨、って言うんだよ。」
「コヌカアメ?何、それ。」
「じゃ、コヌカって、わかる?」
「???」
「ヌカミソを作る、あのヌカのことだよ。」
「あのヌカと、雨とどう関係があるの?」
「ヌカの様に細かい雨のことを、小糠雨って言うんだ。」
「じゃ、この前教えてくれた、霧雨とは、どう違うの?」
「え?・・・それは・・・・・。」


あの時、結局ジョーはその違いを教えてはくれなかったけど、
今降っているのは、どっちなのかしら?

そんなことを考えながら、私は身支度を整える。
「どこかへ、出かけるのかね?」
傍のソファーで新聞を読んでいたギルモア博士が尋ねる。

「ええ、雨が降ってきたから、ジョーを迎えに・・・。」
「そうかい。今日は張々湖が夕飯を作りに来ると言っておったから、ゆっくり散歩でもしておいで。」
「ハイ、お言葉に甘えて、そうさせていただきますわ。」

ギルモア博士の、目を細めた優しげな笑顔は、遠い昔に見た、祖父のそれを思い出させる。
元々しわくちゃの顔を、余計にしわくちゃにして、彼は私に微笑んでくれた。
幼かった私は、彼のその目いっぱいの愛情をも受けて育った。
私は、幸せだった・・・・・

ジョーの散歩コースは判っている。
今頃ならそうね、海岸通りをブラブラと歩いている頃かしら。

案の定、海岸通りに出て、10分くらい歩いたら、
ほら!前のほうからジョーが歩いてくるのが見えた。
まったくもう・・・。
雨が降るのもお構いなしに、傘もささずに歩いてるなんて・・・。
もっとも、その傘がないから、私がこうして迎えに来ているわけだけど・・・。

「フラン!!」
ジョーは私の姿を見つけるなり走ってやってきた。
そして、さし掛ける私の傘の下に入り、テレ笑いする。
「迎えに来なくたって、大丈夫だよ、この位の雨・・・。」
「濡れたら、カゼひくわよ。」
「ボクが???」
ジョーったら、きょとんとした顔をして・・・
「カゼっぴきの看病なんて、まっぴらですからね!」
わざと少しつっけんどんに言って、持って来たタオルを彼に押し付ける。
「あ、ありがとう・・・。」

身体を拭き終えると、ジョーは私の手から傘を取って研究所に向けて歩き出した。
「嬉しかったんだ、本当はね。」
ポツンと彼は言った。
「子供の頃、急に雨が降り出しても、誰もボクを迎えになんて来てくれなかったから・・・。」
教会育ちの彼には、雨が降っても迎えに来てくれる親や兄弟姉妹はいない。
土砂降りになっても、傘を持って来ていなければ、濡れて帰るしかなかった。
そういえば、以前、そんな話をしてくれたことがあったっけ・・・。

「嬉しいのは、私も一緒よ。」
子供の頃、雨が降ると、近くの駅まで祖父や父を迎えに行くのは、私と兄の役目だった。
雨の中を、兄と二人で傘を持って駅まで歩いていくのはとっても楽しいことだったけれど、
傘を受けとった祖父や父に「ありがとう」のキスをされることも嬉しかった。
彼らの笑顔が、大好きだった。

そして、そのうち兄を迎えに行くようになった。
兄はいつも、
「迎えに来なくたって、大丈夫だよ、この位の雨・・・。」
そう言った。どんなに土砂降りの時でも・・・。
でも、その顔は、とても嬉しそうだった。
(まるで、「誰かさん」みたいにね!)
言っている事と表情が矛盾していることに気がついていたのかしらね、兄さんったら・・・。

「誰かを迎えに行くっていうことはね、
その誰かは、私のところへ帰ってくる人だっていうことでしょ?
そういう人が、私にもいるっていうことが嬉しくって・・・。」
もう、またそういう表情(かお)するのね。
そういうのって、日本では「ハトが豆鉄砲食らったような・・・」って表現するんですってね?

「それにね、今は別の楽しみもあるから・・・。」
ジョーは、町の中を歩いている時、腕を組んでくれるどころか、手を繋ごうともしない。
最初は、理由(わけ)がわからず淋しい思いもした。
もしかしたら、私は嫌われているんじゃないかとさえ思った。
そうじゃないってわかってからも、やっぱり淋しかったのよ。
(わかってるの、ジョー?)
でもね、今日みたいな日には、ちゃんと肩を抱いていてくれる。
私が雨に濡れないように・・・。

「ねぇ、別の楽しみって、何?」
「ナ・イ・ショ!」
「どうして?」
「どうしても!」
「イジワルだな、キミは・・・」
「そうよ。私は、イジワルなんですもん。」

だって、それを言ったら、あなたはもう、私の肩を抱いてくれなくなっちゃいそうなんだもん。
だ・か・ら・・・
絶対に教えてあげない!




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                                                      2003/06/13