幻なんかじゃない

このページの壁紙は空色地図さんからお借りしています

僕にとっては宝物だったんだ。
何物にも替えようのない、
この世でたったひとつの宝物。

僕にとっては、たったひとつの希望で、
ただ一筋の光で、
そしてたった一人の肉親で・・・。
僕の全てだったんだ、彼女は。

その彼女が、ある日突然姿を消した。
僕は無我夢中で捜した。
寝る間も惜しんで、あちこち捜しまわった。

それからしばらくした頃、僕は夢を見た。

彼女が泣き叫ぶ夢。
緑色の服を纏い
「助けて・・・」と・・・。
そんな彼女の夢を、何日も何日も・・・。

僕は、彼女を必死に捜し続けた、何日も何日も・・・。
彼女を僕の手に取り戻す為に、
何日も、何年も・・・。

そして、ある日突然、ふっつりとその夢を見なくなった。
何年も、何十年も、そんな状態が続いた。

三年前のある日突然、再び夢を見た。
以前見た緑の服は深紅に変わっていた。

もう泣き叫ぶ事はなく、ただ、前だけを見つめて・・・。
何かを思いつめているような瞳(め)をして・・・。

そして、つい最近、また夢を見た。
久しぶりに見る彼女は僕の前からいなくなった時のままだった。
いや、あの頃よりも、ずっと綺麗になっていた。

緑色の服の時には悲しみの涙を
深紅の服の時には悲壮なまでの決意を
いっぱいに湛えていた蒼い瞳には、優しい光が戻っていた。
でも、その理由(わけ)はすぐにわかったさ。





殴ってやろうと思ってたんだ。
ずっと、そう思っていたんだ、彼女がまだ幼い頃から・・・。
いつの日か、僕から、彼女を奪っていく奴が現れたら。
彼女への愛情と、そして、二人の未来に対しての祝福を込めて、
2,3発、思いっきり・・・。

あの日以来、
「そんな日はもしかしたら、永遠にやって来ないのではないか?」
そんな疑念に何度も襲われた。

だけど、「その日」はやって来た。
今でも、ぶん殴ってやりたい気持ちに変わりはない。
でも・・・。

僕はもう、彼女を守ってやることはできない。
僕の力では、彼女を守りきる事はとうていできない。
彼女は僕なんかの手の届かないところに行ってしまった。
だが、君ならば・・・。

だから、頼む。
彼女を、妹を守ってやってくれ。
僕の希望を、光を・・・。

君に全てを託すから・・・・・。




 



「ジョー・・・・どうしたの?」

「え?」

「ボー――っとして一点をみつめちゃって・・・。」

「そ、そう?
いや、別に、何でもないんだ。」

「そう?なら、いいんだけど・・・。」

パタパタとスリッパの音が遠のいていく。


そう・・・・。
あれは幻なんかじゃない。





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                                        2004/07/07