今日は 釣り日和♪

このページの壁紙はshapeさんからお借りしました。

今日、ボクらは釣りにやってきた。
研究所から20キロほど西の方に行ったところに、絶好のポイントがあると店の常連さんから聞いたという張大人に連れられて、この岩場にやってきたんだ。

「どうせなら、ピクニックみたいにお弁当を持って、みんなで出かけましょうよ♪」
その一言で、メンバー全員の参加が決定してしまった。
フランの言葉に逆らえるヤツってこの中にはいないしね・・・。
あ、無謀にも逆らおうと試みて、しょっちゅう玉砕しているヤツもいるけどさ・・・。(誰のことだか、わかるよね?)

ワゴン車2台に、釣りの道具と、パラソル、バーベキューの道具や材料(もちろん、魚は現地調達だけど)それに、万一釣れなかった時の為に、お弁当を積んで、意気揚揚と乗りこんだ。

到着すると、パラソルを設置し、すぐにでもバーベキューにかかれるようにコンロなどを準備すると、イワンとギルモア博士を除いた男全員は道具を持って岩場に散って行った。
それぞれに場所を決めると、てんでに道具を広げ、糸を垂れ始めた。

ボクが釣り始めてから20分もした頃に、すぐ隣にジェットが移ってきた。
「なぁんかよー、あそこじゃ釣れそうになくってよ。」
とブツブツ言いながら釣り糸を垂れ始めた。

(頼むから、騒がないでくれよ。)
間違ってもボクはそんなコトをジェットに言ったりはしない。
ただ、心の中でそう祈るだけだ。
だって、もし、そんなことをジェットに言おうモノなら、
絶対に「なんだとぉ!」なぁんて大騒ぎするに決まってる。
そんなことになったら、魚が逃げちゃうに決まってるじゃないか・・・。

ギルモア博士はパラソルの影で、本を読んでいる。
時々、クスクスと笑っている。何を読んでいるんだろう?
博士が本を読んで笑うなんて滅多にない事だ。
博士は、本を読んでいる時は大抵難しい顔をしている。
そんな時は、研究関係の専門書を読んでいる時なんだけど・・・。
あ、あんな難しい本を読んで笑ってる人間もいるわけないか。

フランは・・・あれ?フランはどこへ行ったんだろう・・・。
あ、いたいた。
イワンと一緒に波打ち際で遊んでいる。
イワンも珍しくきゃっきゃっとはしゃぎ声を上げている。
見ているとまるで、母子だな・・・、母親が若すぎる気がしないでもないけど。
ちょっと妬ける気もするけど、ま、いいさ。
今だけフランを貸しておいてあげるよ、イワン。

「あ、痛!」
頭の上から哺乳瓶が降ってきた。
(ナニするのさ、イワン!!!)
(貸しておいてあげる、って、何時から彼女は君のモノになったわけ?)
何時からって、もうずっと前からだよ。知ってるくせに・・・。

「おい、お前、哺乳瓶なんか持って何やってんだよ。
ははぁん、お前、イワンに何かしたな?」
隣のジェットが意味ありげに笑う。
「それで、仕返しに哺乳瓶を投げつけられた。当たりだろ?」
「ナンだっていいだろ?ほっといてよ!!」
ったくもう、ジェットってば、こういうことだけはスルドイんだから・・・。

「うるさい!静かにしろ!!」
ジェットの向こう側にいるアルベルトがイライラしながら叫んでる。
「見ろ!」
(怒鳴られちゃったじゃないか)とばかりに、ジェットを睨みつけてやった。
「へっっ!アルベルトが怖くって釣りができっかよ!」
「???」
さっぱり意味のわからない事を言ってジェットは釣りに専念し始めた。

アルベルトは、普段は仲間内ではイワンの次くらいに冷静なんだけど、ものすごい凝り性で、熱中しすぎるとすぐに熱くなる。
ついこの間も、コズミ博士と碁を打っている時に、うっかり声をかけたら、「あっちへ行ってろ!」って、怒鳴られてしまった。
もっとも、打ち終わった後で、「さっきは済まなかったな」って謝ってきたけど。
そう言えば、アルベルトの背中にはなんか殺気が漲っているような気がする・・・。クワバラ、クワバラ・・・。君子危うきに近寄らず、だ。

辺りに不穏なオーラを発しまくっているアルベルトと正反対に「無」の境地に浸っているのが、だいぶ離れたところにいるジェロニモだ。
周囲と同化しているかのごとく、気配を全く感じさせない。
「あ・・・ジェロニモ・・・」と言いかけて慌てて、脳波通信で呼びかける。うっかり声を出そうモノなら、またアルベルトに叱られそうな気がしたからだ。

これでも、ボクは結構目が利くほうなんだ。もちろん、フランほどじゃないけどね。
彼の釣り針の先には魚がかかっている、それも、結構大きいヤツが。かなり引いているんだけど、ジェロニモは気づいていないらしい。
(引いてるよ!ジェロニモ!!)
「う!」
やっと気づいたジェロニモが引き上げた頃には、もう、時既に遅し・・・。魚は、エサだけを頂戴して、どっかへ泳いで行ってしまった。
(すまない。気づくのが遅かったようだ。)
(いや・・・気にしないで・・・。)


     *     *     *     *     * 


車のほうから、ナニやらイイ匂いがしてきた。
ああ、お昼も近いから、食事の仕度をし始めたんだな・・・。
張大人とグレートの声がする。
フランもイワンをクーファンに寝かせて手伝い始めた。どれ、ボクも手伝いに・・・。と、立ち上がったら、
(こっちは手が足りてるから大丈夫。ソレよりもあなたは、おかずを釣り上げてね。
まだ誰も釣り上げてないんですもの・・・。)
さっきのボクとジェット、アルベルトのやり取りを、しっかりと見ていた(聞いていた?)フランが、脳波通信で、そう言ってよこした。

そういうことなら・・・と気合を入れて釣りに専念したのだけど、どうやら、ボクもアルベルトみたいに殺気だってきたらしい。
魚がそれを察知したのか、ちっとも寄って来ない。
結局、誰も魚を釣ることが出来ずに、昼食に突入してしまった。

「お弁当、持って来て正解ネ〜♪」
張大人はニコニコしながらそう言うけどサ、「ココが絶好の釣りのポイント」、っていう情報を持ってきた本人がそんなコトを言うなんて、ちょっと間違ってる気がするんだけど・・・。

釣果がゼロだったお陰で、バーベキューは、ほんの少しの肉と、たっぷりの野菜だけになってしまった。
ま、フランが作ってくれたサンドイッチとおにぎりもある事だし、それに、まだ午後があるんだから、これから頑張ればイイか・・・

そう、自分を慰めていたら、ナンだか急に持っていたお皿が重くなった。
見ると、何時の間にかボクの大ッ嫌いなピーマンがどっさりと入っている。
ジェットはボクから離れたところにいるから、残るは・・・。
(イワン!なんで、ボクの所にピーマンをこんなに入れるんだよっっ!!)
(なんのコト?それよりジョー、好き嫌いは良くないよ。)
「だからって、こんなにテンコ盛りにすることないじゃないか!!!」
しまった、うっかり脳波通信を使うのを忘れた。
皆の注目の的となってしまって、ボクはヤケクソになってピーマンを貪り食った。口惜しさとピーマンのホロ苦さで、涙目になりながら・・・。

本当のことを言うと、加速装置を使って、このピーマンの山をコンロに戻そうか、それとも何処かに捨てちゃおうか、そんなコトを一瞬考えてしまったんだ。
だけど、そんなまどろっこしい事をしなくても、加速装置を使ってちょっと移動させるだけで、空気との摩擦熱で燃えて無くなっちゃう事に気がついた。
次の瞬間には、ピーマンと一緒にボクの服も燃えてしまうことにも気づいたんだけど・・・。(もちろん、加速装置の使用は断念した・・・)

(ジョーってさ、なぁんか構いたくなるんだよね♪)
(まぁ、イワンったら、よしなさいよ。)
なぜか、フランとイワンの会話がボクにも聞こえてくる。
(イ〜ワ〜ン〜! 聞こえてるぞ!)
(うん、聞こえるように言ってる。)
イワンのヤツは、しゃぁしゃぁとそう言ってのける。
この悪ガキ・・・・。「イワンが赤ん坊じゃなかったら・・・」、この時ほどそう思ったことはなかった。


     *     *     *     *     *


散々な昼食もなんとか終わって、ボクらはまた釣りを再開した。
皆、気持ちも場所も変えてやり始めた。
ボクは午前中の事もあるので、ジェットの隣は避けて、ついでにアルベルトの隣も避けて、ジェロニモとピュンマの隣に陣取った。
ナゼ、そこなのかって?
だって、そこなら釣れそうな気がしたんだ。少なくとも、ジェットとアルベルトの近くよりはネ。

だけど、さっきから、ピュンマの様子がなんだか変だ。
じっと浮きを見つめて、ちょっとだけイラついているようにも見える。
戦闘時の冷静さはボクらの中では3本の指に入るくらいの彼なのに・・・。
イライラする彼を見るのは、初めてのような気がする。もう、だいぶ長い付き合いになるけれど。

ジェロニモは、自然と同化するあまりに、また、魚に餌を取られても気づかずにいる。
教えようかどうしようかと思ったのだけど、止めておいた。
彼は彼なりに釣り(?)を楽しんでいるかもしれないのだから・・・。

少し離れたところで、張大人とグレートの声が聞こえる。
「○△→×☆〜!!」
「◎□!※▽◎↑↓!!」
あちゃ〜〜
けんかしてるよ、あの二人。
ふだん、一緒にいることの多いこの二人。中華飯店を共同経営していたりもするんだけど、仲が良すぎるせいなのか、意外と喧嘩をする事が多いんだ。お互い遠慮ってものをしないからなんじゃないかと思うんだけど。
とにかく、日常茶飯事のこの二人の喧嘩には、誰も口を挟んだりしない。
どんなにやりあったって、すぐに仲直りをするし、所詮はただの口喧嘩。周りの物を破壊したり、怪我人を出したりする事はないからだ。

その正反対が、ボクとジェットだ。すぐに取っ組み合いになるし、モノも飛び交うから、モノスゴイ惨状になる。

大分前の話になるけど、ボクらの喧嘩を止めに入ろうとしたフランに
「たかがガキの喧嘩だ。放っておけ」
アルベルトがそう言ったことがあった。
「あなたは、あの二人の取っ組み合いを見たことがないからそういうのよ。」
とフランはアルベルトにかみついた。
それでも、
「いくらあの二人でも、まさか、研究所を破壊するような事まではせんだろう。やらせておけばいいんだ。」
と、まったく取り合わないアルベルトに、フランは
「そう・・・。じゃ、あの二人の後始末は、アルベルト、あなたにやってもらいますからね。」
と言い放った。

その結果は・・・推して知るべし・・・だ。

ともかくそれ以来、ボクラが喧嘩を始めそうになると、アルベルトは右手を構えて
「お前ら、喧嘩するなら外に行ってしろよ・・・」
と低い声で警告する。
もちろん、ボクラはその警告にイヤもオウもなく従う。アルベルトがマシンガンをぶっ放すわけはないし、どんなに怒り狂ったってフランのご機嫌はじきに戻る。でも、やっぱりフランは怒らせないでおくに越したことはないと思う。それは、どうやら、アルベルトも同じようだ。
アルベルトはあの時充分に懲りたらしい(苦笑)。もちろん、ボクらもだったりするんだけど・・・。
「別に彼女がオソロシイワケじゃない。ただ、怒らせると、めんどうくさいからな・・・。」
なんて、言い訳染みたことを言っていたけどさ・・・。

おっとっとっと、脱線している間に、張大人とグレートは、もう、仲直りしていた。
ナンのカンのと言っても、やっぱりこの二人は仲がイイんだ。
ウマが合うっていうのはこの二人の事を言うんだと思う。

「・・・まだ釣れないの?」
何時の間にかボクの後ろに来ていたフランが、ボクのバケツを覗いてこう言った。
「人聞きが悪いなぁ、フラン。
ボクだけが釣れないんじゃないよ。皆釣れていないんだから・・・
ココが釣りの穴場って、本当かな?」
最後の一言は、ちゃんと小声で言ったんだけど、
「ナンか言ったアルか、ジョー?」
って、しっかりと張大人に聞こえてしまっていた。
「え?ボクはただ、釣れないのはボクだけじゃないって言っただけだよ。」
「そうアルか〜」
ふぅ〜〜、びっくりした。

「きゃっっ!」
突然背後で悲鳴が上がって振り向くと、フランがスカートの前を押さえて屈みこんでいる。
え???
周囲の目はみんなフランに注がれている・・・。

「もうっっ!!誰よ!!」
フランが叫ぶ。
「ワリイ・・・。俺とした事が、トンでもないもん釣り上げちまったみてぇだな・・・」
向こうの方でジェットが、頭を掻き掻き、あんまり悪びれた風でもなく謝った。

さっきのイワンの哺乳ビンの一件もあるし、ボクはカチンときてしまった。
「ジェット、なんてことするんだよ。」
ジェットが、仕掛けを沖の方に飛ばそうと竿を振り上げた時に手元が狂ってフランのスカートの裾を吊り上げてしまったらしい・・・。
「事故だよ、事故。誰が好き好んでコイツのスカートなんか釣り上げるかよ!」
あんまりのイイグサに、キレたフランがジェットに向かって手近にあったボクのバケツの中身をぶちまける・・・よりも一瞬早く、ボクが手元にあったまだお茶が残っているペットボトルを投げつけた。もちろん、軽くかわされてしまったけど。

「痛ぇな!ジョー、何すんだ!!!」
かわされたペットボトルが命中したアルベルトが一層殺気を漲らせて怒鳴ってる。
「あ・・・ごめん、アルベルト。でも、ジェットが悪いんだよ。」
「なんだよ、ジョー。オレのせいにするのかよ!!」
「だって、君が悪いんだよ、フランにあんなことするから・・・。」
「だから、あれは事故だって言っただろーが!!」
ジャキッッ・・・。
重い、金属性の音がして、一瞬アルベルトの瞳が冷たい光を放ったように感じた。
「お前ら・・・静かにしろと言うのが、わからんのか・・・・・」
「「ごく・・・」」
ボクラが唾を飲みこんだ瞬間・・・・・

「あ゛〜〜〜!!」
ピュンマが頭を掻き毟りながら立ち上がり、そして、服を脱ぎ捨てると
「やっぱり、僕には、釣りなんて悠長なことは似合わないんだ。」
そう言って、海に飛び込み、あっという間にひと抱えもある大きなイナダを捕まえて一番近くにいたジェロニモに放ってよこした。
「ウム・・・やっぱり、魚取りはこうあるべき・・・。」
と呟いたジェロニモも服を脱ぎ捨てると、海に飛びこんだ。

二人で、海中に潜っては魚を獲ってボク達がいる岩場に投げ上げる・・・。
たちまちのうちに、魚の山ができた。
イナダ、サバ、アジ、イワシ・・・中にはタイも何匹か混じっていた。
どうやら、ここが穴場だってことはあながち嘘じゃなかったらしい。
ただ、釣ってるボク達の腕が悪かっただけなのかも・・・。

みんなが唖然として見守る中、小高い魚の山が3つもできた頃、
張大人は、満足げに
「もう、これだけあれば、充分ね〜。たくさんたくさん、魚の料理を作れるアル♪」
そう言った。
「おう、うめぇモン、腹いっぱい食わしてくれよな!」
「任せてちょーらいあるね〜♪」
ジェットのリクエストに、張大人はドンと胸を叩いた。

「料理は研究所に帰ってからやるとして、鮮度が落ちない様に、すぐに下ごしらえをするアルね。
グレートはん、手伝うヨロシ。」
「ええっっ!!今すぐここで、料理するんじゃねぇのかよ〜!!」
「ジェット、そんなコト言ったって、ピュンマもジェロニモもずぶ濡れなのよ。
そのままでいたら、いくらなんでも、風邪ひいちゃうわよ。」
「だってよーー、オレ、腹減ってんだぜぇ」
ジェットは柄にもなく、「瞳ウルウル光線」で、フランを攻略する作戦に出たみたいだけど、ついさっきあんなコトをしたばっかりなんだから、通用するわけがない。それでなくても、フランは執念深いところがあるっていうのにさ・・・。

「だったら、海水でも飲んだら?こんなにいっぱいあるんですもの、おなかいっぱいになるわよ!」
「ええっっ!?そりゃねぇだろーーー!!」
ジェットの情けない叫び声に、みんなは大笑い・・・。ボクも笑っちゃったクチだけどね・・・。
いつもだと、ここでフランと大喧嘩になるんだろうけど、今はそれもできないくらいにオナカが空いているらしい・・・。ちょっとだけ、気の毒な気もするけど・・・まぁ、自業自得だろうな・・・。ボクも庇ってやる気なんか毛頭ないし・・・(邪笑)。あれ?、ボクも結構執念深いのかも知れないな・・・。

情けない顔をしている、燃料切れ(?)のジェットは放っておいて、みんなが帰りの仕度を始めた。
各自の釣り道具や、バーベキューの道具、パラソル・・・など、次々と積みこみ、最後に張大人とグレートが下ごしらえした大量の魚と、その下ごしらえの道具も載せ、ボクラはこの岩場を後にした。

帰る途中、ボクは考えた。
「結局、あそこって、釣りの穴場だったんだろうか?そうでなかったんだろうか?」
ボクラは誰一人として、一匹も釣り上げていない。でも、収穫はたっぷり・・・。

でも、隣のシートでボクに凭れて眠っているフランの顔を見てたら、そんなことはどうでもよくなってしまった。そう、間違いなく、今日は釣り日和だったんだ。だって、こんなに楽しかったんだもん・・・。ね・・・!!





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                                       2003/12/09