月の光に浮かび上がるような白い白い、君の姿
儚げに、悲しげに、僕を見つめる君の蒼い瞳
「フラン・・・」
僕は君の名を呼び、ありったけの力を込めて
君の細い躰を抱きしめる
君の躰の柔らかい感触は確かにあったのに
甘やかな、君のかおりを確かに感じたのに
君の姿は何時の間にか消え去って
僕の両腕は、君ではなく、僕自身を抱きしめている・・・
フラン、僕のフラン どこへ行ったの?
僕を置いていかないで
僕を一人にしないで
いつでも、いつまでも、僕のそばにいて・・・


僕はこのところ、そんな夢を頻繁に見る。
フランソワーズが先のミッションで負傷し昏睡状態に陥ってからというもの、
ずっとこのアリサマだ。
戦場においては「最強のサイボーグ、009」それが、僕。
でも、今の僕は、只の一人の情けない男。
この世で一番大切な女性(ヒト)がこんな状態になっているというのに、
見守る事しか出来ない、情けない男。

戦場の片隅で、
僕らのナビゲーションにその全能力(ちからのすべて)を傾け、
敵の攻撃をその身に受けても、尚、意識を失う直前まで
「003」であり続けた君。
「戦場の百合の花よりも、あなたの手の中に咲く菫の花になりたい」
いつだったかそう言っていた君が、
自分の血で大地を真っ赤に染めて、
それでもまだ、百合の花で在り続けようとしていた。
そんな、君の強い意思を見せつけられても、
僕に出来たのは、
君をそんなにしたヤツを叩きのめして、
そして、君を抱きしめ、呆然としていることだけ。
「ナニをしている。003を見殺しにする気か?」
002に一喝されてやっと我に返り、
瀕死の君に衝撃を与えないように、加速装置を最低速にして、
ドルフィン号に運び込んだ。

あれから、もう2週間。
メディカルルームでずっと眠り続ける君は、
生命(いのち)を繋ぎ止めるための機械類に囲まれ、
体中にチューブを繋がれ、
白い、白い顔をしている。
時々苦痛に顔を歪めるのを見ると、
その苦痛から君を守ってあげられない僕が
無性に腹立たしくなる。
いつになったら
この苦しみから解放されるのか、
いつになったら
また、君の笑顔が見られるのか
そればかりを考えている。








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                                              2003/3/21
花影
act1 白い夢

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