瓢箪から独楽   誘拐事件
ひょうたんからこま ゆうかいじけん

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《2日目》

 記事を書いた人物の身元は、簡単にわれた。グレートの多少誇張はされていはいたものの絶妙な演技に、すっかり騙された出版社の人間が、あっさり教えてくれたのだった。
 ギルモアを除く、4人は教えられたマンションの前に立っていた。

 「ここか・・・。あの記事を書いた岩田ってヤローの居場所は。」
 すぐにも飛び込みそうなジェットを、アルベルトは、
 「まぁ、待て。先にフランソワーズに呼びかけてみようぜ。」
と窘め、脳波通信を使って呼びかけた。

 返事は、あった。
 そして、数分後、近くに停めてあったワゴン車に全員が戻った。
 「どうじゃった?」
 車内で待っていたギルモアが不安げに問う。
 「フランソワーズは、やはり、ここにいました。」
 「ほぅ〜〜っ」と大きな溜息をつくギルモアに、アルベルトはさらに続ける。

 彼女は怪我ひとつなく、無事であること。攫っていったのはこのマンションの1室の住人である岩田と、その弟分のゴローであること。誘拐の目的は、ジョーのプライバシーに関する情報を聞き出すためであったこと。一方、ゴローはジョーの幼馴染で、フランソワーズにも好意的であること。さらに、イワンが目覚めたこと。

 「差し迫っている危険はありません。それに、今俺たちが乗り込んで、二人を取り戻しても、問題は余計にややこしくなると、フランソワーズが言っているんです。」
 「なんとか、穏便にコトを済まそうというのか・・・・。あの娘らしいのう・・・。じゃが、このことをジョーにはなんと・・・?」 
 「ジョーには連絡しねぇでくれってサ。今ヤツにそんなこと知らせたら、絶対にヤツはレースを放り出して来るだろう。そうなるとヤツは益々マスコミの連中に追い掛け回されることになるって言うんだ。」
 「たいちょぶよー、博士。イワンが目覚ましているアルからして・・・。」
大切な一人娘の危機に、おろおろするばかりの老父、と言った様子のギルモア博士を気遣いつつ、4人は、あたりの様子に目を配っていた。



 夕方頃、ワゴン車の横を、大きな袋をいくつも抱えた男が通り過ぎた。
 「お、おい。あれ、」
 「岩田アル。」
 <フランソワーズ、岩田が大きな荷物を抱えて部屋に向かっている。気をつけろ>
 アルベルトが、脳波通信で注意を促す。
 <なんだって?あぁ、そうか。わかった>
 「荷物の中身は、イワンの紙オムツやミルク、それに、食料品だそうです。フランソワーズが、岩田に買いに行かせたそうです。」
一同は、予想もしていなかったことなので、思わず脱力した。
 「やれやれ。誘拐されてる最中だってのに、人使いの荒いこった・・・。」
 「でもよぉ、フランソワーズの人使いの荒いのは、いつものことだぜぇ。」
 妙に岩田に同情的なグレートとジェットに
 「仕方ないアル。あれだけの、大所帯を切り回しているアルよ。フランソワーズ一人では、とても無理のコトね。一番、手を焼かせてるくせに、ナンにも手伝わないジェットには、文句言う資格はないアル。」
 と、張大人が、フランソワーズの肩をもつ。

 しばらくして、マンションの岩田の部屋では、フランソワーズが食事の仕度をしていた。
 (まったくもう、いくらなんでも、こうインスタント食品が続いたんじゃ、たまらないわ・・・。)
誘拐されて以来、ずっと菓子パンや、カップヌードルが続いたのである。フランソワーズが憤慨するのも無理はない。
おまけに、紙オムツに至っては、岩田が事前に用意していた安物で、フランソワーズが持って来ていた予備の物を使いきってそれに使うようになってからというもの、ずっとイワンはむずかっていたのだ。ミルクの方も、これまた、イワンにはお気に召さなかったのだが、背に腹は代えられないので、しかたなく飲んでいた・・・。

そこで今朝、帰ってきた岩田をなんとか説き伏せて、イワンのミルクと紙オムツと食料品を買いに行かせたのである。お陰で、岩田はフランソワーズが書いたメモを片手に1日中あちこちの店を探し回ることになった。指定のブランドのミルクと紙オムツが、なかなか見つからなかったのだ。

キッチンの隣にあるリビングでは、岩田がぼやいていた。
 「なんで、オレはこんな事をしているんだろう?」
 「こんな事をしていて、なんになるんだ?」
予期しないことの連続に、主犯の岩田は戸惑っていた。
 大体、なぜ、彼女が食事の仕度なんかしているのだ?その前に、なぜ、オレは使い走りみたいなコトまでさせられたんだ?大の男が、紙オムツやミルクの缶を抱えて,町の中をうろうろするさまといったら・・・。結構、恥ずかしい・・・。自分の娘の時でさえ、こんなことはしたことがないのに・・・。
 普通、誘拐されたら、泣くか、騒ぐかするだろう?そうでなけりゃ、怯えるとか、逃げ出そうとするとか・・・。なのに、彼女ときたら・・・。

 「おい、怖くないのか?お前は、誘拐されているんだぞ。」
岩田はわざと、声を荒げて、フランソワーズに詰め寄ってみる。
 「怖くないと言えばウソになるわ。でも、怯えて泣いていても何にもならないでしょう?」
 それに・・・。フランソワーズには、なぜか、この、岩田と言う男が悪い人間には思えなかったのである。事実、岩田の心を読んだイワンもそう言っている。もちろん、テレパシーで、だが。
 「大した度胸だな。そのクソ度胸もいつまでもつかな・・・。さっさと喋って、家に帰ろうって気になんねぇのかよ」
 「何を、話せと言うの?」
 「決まってんだろ?ハリケーン・ジョーのことさ。ヤツについて、知っていることを洗いざらい喋れと言ってんだよ。」
 「そういう事なら、お話することはないわ。」
静かに、だが、きっぱりと撥ね付けるフランソワーズの言葉に、岩田も黙り込んでしまった。
 (こりゃ、彼女に喋らせるのは、ホネだぞ。戦法を変えるしか、テはないか・・・?)




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                                                  2003/11/08