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フランソワーズは朝から元気がない。
準備があるからと、リビングから追い出されて、
仕方なく、お気に入りの浜辺へ散歩に出ても、一向に気が晴れなかった。

それでも、夕方予定通りに、パーティーは始まった。
「誕生日、おめでとう!」の言葉と、
「オレ達8人から・・・。」
と、アルベルトから真紅のバラの花束を手渡された時は、
流石に微笑と共に受け取ったのだが、
それは、いつもの満面の笑みとは違って少し憂いを含んだものだった。

ジョーは、所属するレーシングチームから急な呼び出しがかかり、
慌ただしく昨日イタリアへ発って行ったのだった。
チームのスポンサーが主催するパーティーに出席するように請われたのだった。
「明後日の夜には、帰って来るけど・・・。」
と済まなそうに告げるジョーに
「仕方ないわ。お仕事ですもの・・・。」
と、その場では言ったフランソワーズだったが、
内心はひどくがっかりしていた。

「ったくよう、ジョーのヤツ、なんでこんな時にいなくなっちまうんだよなー。」
宴会部長のジェットとしては、さっぱり盛り上がらない宴会に不満げに呟く。
「シッッ!それを言っちゃぁ、ダメアルよジェット。」
張大人が、ジェットを小声で窘めるのを聴いて、
「さぁ!今夜は楽しく飲みましょう!!」
と、明るすぎるくらいの声で、フランソワーズは言った。
(そうよね、せっかく、みんなこうして私の為に集まってくれてるんだから。
私が暗い顔をしていちゃ、いけないわよね。)
その後は、各人のプレゼントを公開し、、
いつもの通り、宴会が進み、酒や料理は順調に皆の胃袋へと消えていく。

しかし、主役のフランソワーズが、時折淋しそうに外を見遣るせいなのか、
いつも、みんなにサカナにされ、からかわれているジョーの不在のためか、
消費された酒の量の割には、みんな正気を保っている。
これには、いつもメンバーたちの酔っ払った様を見せ付けられて
「ボクハ、絶対アンナ大人ニハ、ナリタクナイ!!」
と呆れかえっていたイワンでさえ、戸惑っていた。

あと10分ほどで日付が変わるという頃、研究所のドアが大きな音を立てて開かれた。
次の瞬間、フランソワーズは瞳を輝かせて玄関の方へと走った。
そう、玄関には、息をはずませたジョーがいた。
「間に合った?」
自分の胸に飛び込んできていたフランソワーズに優しく聞く。
「キミの誕生日に、間に合った?」
嬉しいのと、驚いたのとで声にならないフランソワーズにジョーは続けて言う。
「誕生日、おめでとう、フランソワーズ」
そして、身体をそっと離して、後ろ手に持っていたものをフランソワーズに手渡す。

フランソワーズは手渡された黄色いフリージアの花束に顔を埋めると、
その香りを胸いっぱいに吸い込む。
その華奢な肩が小刻みに震えているのが、ジョーにもわかる。
「フラン?」
「・・・・・・・」
「あ・・・・あと30分で、研究所に着くって時に、車がパンクしちゃってさ、
でも、少しでも早く着きたかったから、そこから走ってきちゃった。
これ、持ったまま、必死で走ってきちゃったからさ、
だからさ、花、傷んじゃってるかもしれないけど・・・」
あたふたと言い訳をするジョーに、
「ううん、違うの。」
と、フランソワーズは頭を振った。
「?」
「ありがとう。憶えていてくれたのね。」

小さい頃からフランソワーズは、芳しいこの花が大好きだった。
それを良く知っている両親は、彼女の誕生日にはプレゼントとこの花を必ず贈った。
そして、両親を失くした後は、兄がそれを引き継いだ。
当時、温室栽培などの技術がそれほど発達していなくて、
1月の彼女の誕生日の時期のこの花には、高い値がついていた。
「それなのに、兄さんは私の誕生日には必ずこの花を贈ってくれた・・・。」
両親を失くし、そんな余裕などあるはずもないのに、である。
そんな話をジョーにしたのは、もう、だいぶ前のことだったはずだ。

「空港から戻ってくる途中の花屋で、見つけたんだ。
キミの髪の色にそっくりな、この花。
そうしたら、思い出したんだ・・・。」

ふいに頭の中に、みんなの声が響く。

<悪い、ボク達もう寝るから。>
<後は2人でスキにしてくれや。>
<明日は、昼から博士の誕生パーティー、アルよ〜。>
<邪魔したな、お二人さん。>

「ふふふ、気を遣わせちゃったみたいね」
「そうだね・・・。」
2人は、まるで、イタズラをみつけられてしまった子供のように微笑み合う。
「日付、もう変わっちゃったけど、お祝い、してくれる?」
「もちろん!それに、夕ご飯まだなんだ。お腹すいて死にそうだよ・・・。」
「そんな状態なのに、途中から走って帰ってきたの?」
「だって、キミの誕生日に間に合わせたかったんだ。」
そんな会話を交わしながら、2人は、パーティーの続きをする為に
リビングへ向かった。





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                                                       2003/01/19