イワンの初夢

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「お兄ちゃん、起きてよ、お兄ちゃんってば・・・。」
誰かに揺り起こされ、僕の意識は覚醒に向かう。
白い光の中に、栗色の髪に蒼い瞳の女の子が笑いかけてくる。

「ほんと、お兄ちゃんはよく眠るわね。ママンが『寝ボスケ王子様』っていうわけよね。」
ほっといて欲しい・・・。僕には眠りは欠かせないんだから。
それに、これでも、1回の睡眠時間は短くなった方なんだよ、昔に比べれば各段の差なんだからさ。
僕はむっとしながら上半身を起こす。

「ねぇ、お兄ちゃん、宿題教えて欲しいの・・・。」
彼女が言わなくっても、そんなことお見通しだった。
でも、敢えて、僕は尋ねる。
「どの問題?」
「これこれ。もう、なにがなんだか、わかんないのよ。
センセイったら意地が悪いわ!私が判らなくって困っているのが楽しくってこんな問題を宿題に出すのよ、きっと!」
彼女は彼女の母親にそっくりの口調で僕に文句を言う。

「そんなことは・・・」
ないと思うよ・・・なんて言ったら大変だ。
吊るし上げを食うのは目に見えてる。そう、まるで彼女の母親そっくりの口調でさ・・・。
彼女の母親も、彼女自身も大好きだけど、吊るし上げを食うのは、真っ平ゴメンだ。
「え?そんなことは・・・なぁに、お兄ちゃん?」
口調は優しいけど、目はモノすごぉ〜くコワイ。ったくもう、こんなところまで似なくってもいいのに・・・。
どうせ、誰かに似なくっちゃいけないのなら、父親の方に似ればいいものを・・・(こう言うトコはね)。

「ううん・・・なんでもないよ。それより、これ・・・。」
そう言って、彼女の意識を宿題の方に向ける。
「ここは、ね・・・・」

彼女に解説すること、モノの2分・・・。
小学校3年生の彼女にはかなりハイレベルな問題だと思ったが、僕が説明すると、あっという間に理解してしまった。
「じゃ、答は・・・こうなるのかしら?」
「そう・・・。そうだよ・・・。すごいじゃないか・・・。丸っきりわからないようなことを言っていたのにさ。」
「ううん、お兄ちゃんの教え方が上手なのよ。あ〜あ、お兄ちゃんが私の先生だったらなぁ〜!!」
頭の後ろに手を組んで上の方を見上げる。あ・・・こう言うポーズは父親に似てるかな?

「ねぇ、お兄ちゃん、パパとママンが恋人同士だった頃って、どんなだったの?」
ぶーーーーーーーーーーっっ!!
いきなりナニを言い出すんだろう、彼女は(汗)
「ど・・・どんなだったって???」
「だってさぁ〜。いっくら聞いても、二人とも赤くなってるだけでさ、ちっとも教えてくれないんだもん。
『ぼ・・・僕達は別に・・・』ってさ・・・」

へぇ〜。まだ、そんなこと言ってるんだ、相変わらず・・・。
「お兄ちゃんは知ってるんでしょう?」
「え?そりゃ・・・ね・・・。でもさ、二人がそのうちに話してくれると思うけどね。」
「そうかなぁ〜?」

彼女の母親は、トンでもない地獄耳なんだよ。こんな話を彼女に聞かせてるなんてバレたら・・・なんて、考えるだけでもオソロシイ・・・。クワバラ、クワバラ、君子危うきに近寄らず・・・だ。
それにさ、僕がわざわざ話して聞かせることでもないと思うし、必要ならば、彼らがちゃんと話して聞かせると思うし、ね。
あ、窓の外でナニやら大声が聞こえる。
彼女の追及をかわす為に、僕は窓の外へと歩いていく。

「あ!!お兄ちゃん、起きたんだ!!」
「ねぇ〜!一緒に遊ぼうよ。」
助かった・・・。
「うん!遊ぼう!!」
こんな時の為に隠してあった靴を机の下から取り出してきて履き替えると、窓から飛び出した。
「ああ!お兄ちゃんったら!」
「ママンにはナイショだぞ〜!」

僕は外に出ると、ボール蹴りに混ぜてもらった。
みんな、僕の「弟」や「妹」達。
しっかし・・・みんなそれぞれの両親によく似てる。
僕も、もしかしたら、そうなのかもしれない。
最近、よくそう思う。以前はそんなコトを考えると、嫌悪感でいっぱいになったけど、いや、両親の事を思い出す事すら拒否していた頃もあったけど・・・。

この頃、僕は考えるんだ、彼らの事を。特に父のことを。
僕をこんな身体にした父・・・。僕を庇った母を殺した父。僕は、ずっと憎いと思ってきた。彼が父である事を認めたくないと思い続けてきた。
でも、父が僕をこんな風にしたのは、難病に冒された僕の生命を永らえさせるためにだったのだと、後から知った。
それを知った後でも、僕から母を奪った父を許せないでいた。

だけど・・・。
ここ何年かの僕の仲間達を見ていて、僕は考えは変わった。
結局、彼が僕にした事は、形はどうであれ、結果はどうであれ、愛情の現われではなかったか・・・。
彼は、彼なりに、僕を愛していてくれたのではなかったか?

「愛情」と一言で言っても、人それぞれに愛情のカタチは違う。
僕の父は父なりの愛情を以って、あの手術を僕に施したのだと、今は思う。
僕は、人の親となった僕の仲間達に、そう教えられた気がする。

「あーーーー!お兄ちゃん!ボールが行ったよ!」
「あ・・・ごめん!」
また僕の悪い癖が出たようだ。考え事をはじめると、それまでやっていた事がおざなりになってしまう・・・。
昔、緊張の連続だった頃にはなかった、今の僕の癖・・・。

あれは、何年前の事だったろう。
地下に巣食っていたBGを滅ぼし、その後、蜂起してきたNBGもなんとか滅亡させ、平和を取り戻したのは・・・。
散り散りになっていた仲間達も、それから数年後には結局、日本にある研究所に戻って来た。

そして、ようやく手に入れたこの平和を、少しでも確実なものにする為には、新しいBGが生まれてくるのを少しでも遅らせる為には、どうしたらいいのか?それを話し合った。

そして、或る一つの結論に至った。
人の心に欲望と言うものが存在する限り、BGは何度でも生まれてくる。それが救いようのないほどの真実であったとしても、その可能性を少しでも減らす事が出来れば、新たなるBGが生まれてくる時を少しでも遅らせる事が可能なのではないか?と・・・。
そして、その目的達成の為に、僕らは立ち上がった。

僕らは様々な場所で、それぞれの個性や興味に合わせてイロイロなことを学び、知識と技術を身につけてきた。
もちろん、彼らが効率よく学び取る為に、僕も一役買ったのは言うまでもない。
そして、それらを活かし、財団を設立した。
ひとつの町がすっぽりと入るくらいの広大な土地を買い取り、そこにありとあらゆる施設を作り、僕らの生活の拠点をココに移した。
ギルモア博士とコズミ博士の研究所も移転した。

そして、僕らの活動は始まった、僕らが手にした結論を「カタチ」にするために。
人の心に巣食う悪の心をできるだけ根絶やしに近い状態にするのには、僕らだけの力では、とてもじゃないけど及ばない。それならば、それを実現出来うる人材を育てればよい。BGという巨大な悪の暗闇に対抗するには、一人一人のロウソクのような、小さな儚い光ではとても太刀打ちできない。でも、それが、何千、何万と集まればどうなるか。そして、それを次の世代へと引き継ぐ人間がいれば・・・。
暗闇はなくなりこそしないが、最小にすることはできる、永遠に・・・。今の僕達の任務は、そのロウソクたる人材を育成することだ。

僕らが身につけてきた知識や技術そして僕達の思惟(おもい)を、多くの人達に伝える為に、財団の中に学校を作り、多くの優秀な生徒、学生を世界中から募った。
もちろん、伝える側の人間も僕らだけでは手不足だ。何よりも、もしまた何かが起これば、僕らは不在となる。僕らが抜けた穴を最小限にする為に、僕らと志を一にする人材も集めた。
そして、今、僕らの試みは順調に運んでいる・・・。僕達の意思を引き継ぐ者達が、どんどん世界に羽ばたいて行っている。

僕らは次の目標を得たわけだが、一方では決してそれのみの為に生きてきたわけではない。ちゃんと、個人としての生活も謳歌している。
研究所に戻ってきた仲間達の半数は、すでに家族を得ていた。そして、残りの半数も、ほとんどが・・・・。
そして、僕にも家族が出来た。
僕は、ジョーとフランソワーズ夫婦の養子になったんだ。もちろん、普段は彼らのことを「パパ」「ママン」なんて呼ぶことはないけどね。あ、「もし、そう呼びたければ、呼んでイイのよ」って、フランソワーズは言ってくれているけど、でもやっぱり、照れ臭いんだよね・・・。

彼らは、僕が望むのならば、実子として届け出ると言ってくれてたんだ。「悲しいことだし、恥ずかしいことだけど、今のこの国の社会では、まだまだそういう事で差別を受ける事が多いから・・・。」ジョーはそう言っていた。それに僕とピュンマが協力すれば、それは可能なことだし。
でも、僕はそれは望まなかった。もちろん、彼らの気持ちは涙が出るほど嬉しいし、そうしたいという気持ちもなくはない。でも、そうすることで、僕の中から、僕の両親の存在を消してしまうような気がしてならなかったんだ。以前の僕ならばともかく、父の僕に対する愛情に気づいてしまった今の僕にはとうていできない事だった。

それから、仲間の子供達はみんな僕のことを(見た目は彼らの半数よりも小さい子である、この僕をだよ!)お兄ちゃんって呼ぶんだ。誰かがそうしろって言ったわけでもない。なんだか、くすぐったいけど、とっても、嬉しい。この、カワイイ「弟」や「妹」達の為なら、僕はなんでもできてしまうような気がする。彼らもまた、僕の大切な家族なんだ。

そして・・・僕には、奇跡としか思えないようなことが起きていた。以前僕は、普通の人との時間のサイクルがかなり違っていた。普通の人の30日が僕にとってのほぼ1日というのが、僕の生活サイクルだった。それが、段々普通の人のサイクルに近づいてきて、今はもう、ほとんど同じ位になった。そして、僕の体は成長し始めた・・・・。今、僕の体は6歳児と同じ位に成長している。もちろん、僕の成長の速度は最初はかなり緩慢だったが、年を追うごとに段々速度を増してきて、今では普通の子供(つまり生身の子供)より少ーし遅いくらいになった。

そこで、なんと僕はこの4月から、小学校に入学することになった。もちろん、この財団内に設立されている小学校にだけど。
僕の将来の為にも、普通の子供としての経験は絶対に必要だという、フランソワーズの意見にみんなが賛同した結果だ。
最初は「え・・・なんで、今更、小学校だなんて・・・」って思ったけど、でも、今では本当に楽しみなんだ。(もちろん、フランソワーズや仲間達には感謝してるよ。)

僕の「弟」や「妹」達は、学校から帰ると大抵一緒に遊んでいる。そこに、時々彼らの同級生の子供達が加わることがある。その時の様子を見ていると、どうも、同級生って言うのは、兄弟姉妹とも違った存在のようなんだ。僕としては、この「同級生」なる存在を分析してみたくって、今のところ、興味津々なんだ・・・。
え?素直じゃないって??同級生が欲しいなら素直にそう言えばイイのに、だって???
放っておいてほしい。生まれて何年もこんな性格だったんだから、今更直せと言われても・・・・。って、やっぱり、素直な方がいいのかなぁ?

そうこう、考えているうちに、眠気がしてきた。そういえば、昨夜は哲学書を読んでいて、夜更かししてしまって、フランソワーズに叱られたっけ・・・。
さっき、お昼寝から起きたばっかりだというのに・・・。
なんだか、体の周りに柔らかくって、温かい感触がしてきた。
いけない、もう、部屋に戻らなくっちゃ・・・。戻・・ら・・・・な・く・・・・っちゃ・・・・・・・・・・・・・・




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                                        2005/01/01