とある騒動と再会     そして・・・

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二、三名の反対者を押し切って始められたジェット主催の大宴会だったが、どういうわけだか早々に参加者のほとんどが撃沈されてしまった。中には要領よく逃げ出した不届き者も二名ほどいたりするが(邪笑〜♪)

生まれ育った社会的背景のお陰で、かなりイイ年になっていたノアだが、酒を飲むのは今回が初めてだった。にもかかわらず、ノアは顔色一つ変わらず、思考回路にも些かの狂いもなかった。つまり、ちっとも酔いが回っていなかったのだ。つまり、ぶっちゃけた話、ノアは酒にはものすご〜く強い体質のようだ・・・。
どうやら、この辺りはフランソワーズの遺伝子が強く作用しているのかもしれない。

沈没してしまった参加者は起きていたイワンがいつもの通りに観念移動(テレキネシス)でそれぞれの部屋に送り届け、最後まで意識を保っていたアルベルトとジェロニモは自力で自室に引き上げた。



「ところで、イワン・・・」
ちょっと耳を貸せという風に、イワンに向かってノアが手招きをする。
「私事ですまないのだが、どうしても聞いておきたくてね。」
「イヤ、構ワナイヨ。アノ二人ノコトガ気ニナルンダロウ?」
ずばりと核心を突いたイワンの答えにノアは驚き(メンバーの能力については彼は熟知しているのだが、実際に目の当たりにしてしまうと、やはり驚くものだ)、さらに次の瞬間、フランソワーズのサイボーグとしての能力のことを思い出し、
「し〜〜っ。当人達に聞こえたらいくら何でもまずかろう?」
イワンに向かってそう言うのだった。

その様子が、さながら自分のしでかしたいたずらが親にバレるのを恐れて隠そうとするいたずらっ子のようで、イワンは思わずクスリと笑ってしまった。
「何がおかしい。私は自分の時間に帰ってしまえばもう関係ないのだから、別に構わんのだが、ずっと一緒に生活する君は困るんじゃないのか?」
いくら天才的な頭脳の持ち主とはいえ、所詮は赤ん坊であるイワンに笑われた事がよほど彼のプライドを傷つけたのか(?)少々意地悪な言い方をしてみる。それにしても、ムッとして唇を尖らせて文句を言う表情がまた、ジョーを髣髴とさせる。「血は争えないものだな。」

「大丈夫ダヨ。ふらんそわーずハ普段ハ余程ノ事ガナイ限リ、能力(ちから)ハ使ワナイ。ソレニ、コノ研究所ノ部屋ハ全室完全防音ダヨ。」
「そ・・・そうか。ならいいんだがね。
では、改めて聞くがな・・・」
安心して・・・と言った割には、少々戸惑いながら、ノアは訊ねた。

「実際のところ、アノ二人は一体どうなっているんだ?」
「ドウッテ・・・見タトオリダケド・・・デモ、ドウシテ?」
イワンはわざと焦らそうとしているかのようにスっとぼけて返事をする。わざわざ聞かなくとも、イワンにはノアの心を読むまでもなく表情を見るだけで手に取るようにわかることなのに、ノアはそれに気づいていないらしい。

「どうしても何も・・・。前回、私があの二人に会った時から、こっちの時間ではかなりの年月が経っているはずだ。
普通ならばとっくの昔に結婚して、子供の一人や二人いたっておかしくないはずだ。なのにどうしたというのだ?二人の仲はまるっきり進展していないじゃないか。
あんな状態で、本っっ当に二人は結婚できるのか?」

ムキになって食って掛かる時の表情は、フランソワーズにそっくりだ。かわいい〜♪
ちょっとだけ・・・からかってみちゃおうかなぁ?それくらい、いいよね?
などと、イワンは考えつつ・・・

「結婚デキタカラコソ、君ガ今モ存在スルンダヨ。ソウハ思ワナイカイ?」
「それはそうなんだが・・・しかし・・・だな・・・」
「マァ、アノ二人ノ様子ヲ見テイタラ、心配ニナッテモ無理ハナイトぼくダッテ思ウケドネ。」
「だろう???」

「ソンナニ心配ナラ・・・」
イワンの目がキラッと光って、ノアの脳にある映像が浮かんだ。
「お・・・おい、コレは・・・」
「ソウ、今、君が見テイルノハ10分ホド前ノ実際ノ光景ダヨ。君ノ精神ダケヲ二人ノイル場所ニ飛バシタダンタ。」

映像といっても音声付きのかなりリアルなもので、まるでその場所に、しかも手を伸ばせば届きそうな間近な場所に、自分がいるかのようだ。
二人の息遣いまでも手に取るようにわかる。
今にも二人が自分の存在に気づきそうな、そんな感じがする。

だが、実際にその場所に自分が存在するのはゴメン被りたい、死んでもイヤだ・・・。
オレは覗きの趣味はない。馬に蹴られて死ぬのも真っ平だ。いや、馬に蹴られる前にジョーに殴り殺されているかもしれない・・・。

「イ・・・イワン、もういい。」
ほんの短い間の事ではあったのだが、ノアの喉と唇はカラカラに渇き、声はとてつもなく上ずっていた。

きゃっっ。真っ赤になっちゃってるよ〜。
カワイイなぁ〜♪(邪笑)
やっぱり、ジョーとフランソワーズの子孫だけのことはあるね。
イワンはなんだかウキウキして来た。

「わかったよ。私の心配は杞憂だった。」
「ネ、心配イラナイッテ事、ワカッテクレタ?。」
「ああ、わかりすぎるくらいにわかった。」
「コレデ、安心シテ自分ノ世界ニ戻ル事ガ出来ルネ?」
「ああ、私の力はもう必要ないだろうしな・・・。他の時間に干渉するのはやはり好ましくない。出来る限り避けるべきだ。」
「固インダネ。」
「真面目と言うんだ。」

「「ふふふふ・・・」」
目を見交わして、笑い会う2人。
なぜかコイツとはウマが合いそうな気がする・・・。
お互いにそんな事を感じる。

和やか〜な空気が流れたその時に、
「寝室の準備ができたわよ〜。」
とフランソワーズがリビングにやってきた。
もちろん、先ほどまでの雰囲気は一切感じさせることなしに爽やか〜に、である。

「バスにはお湯を張ってあるし、好きなように使ってね。
あ、明日の朝ごはんはチャイナでいいかしら?
張大人が炊事当番なのよ。
あ、それから・・・」

少々上気したような赤い顔をしているノアの様子に気づかないのか、フランソワーズは話し続けようとする。
「どうせこっちに来た直後の時間に戻るのなら、もっとゆっくりしていったら?こっちの時間のイロイロな所にあなたを案内してあげたいし・・・」
「///////い・・・いや、明日の朝になったら私は元の時間に戻る。私がここに存在すること自体あってはならないことなのでね/////」
先程見てしまった(見せられた?)光景がまだ頭の中で渦巻いているお陰で、ノアはフランソワーズの顔をまともには見られない。

「そう、残念だわ。」
「すまない・・・」
「うふ、そういう表情、ジョーにそっくりね。
残念だけど仕方ないわよね。また会える?」
「・・・・・・・」
「あ、いいわ、聞かないでおく。いつかまた会えると思って、楽しみにしているわ。
じゃ、おやすみなさい。また明日ね。」

パタンとドアが閉まってフランソワーズが去っていく気配がする。

「おい、イワン、彼女、いつもああいう風なのか?」
「アアイウ風ッテ?」
「つまり・・・///」

あ、また思い出しちゃったんだな。ホントノアって可愛いなぁ〜♪


「ウン。彼ラハ、直前ニ何ガアッタトシテモ、何ヲシテイタトシテモ、オクビニモ出サナイヨ。タダシ、例外モアルニハアルケド・・・」
「なんだ、その例外ってヤツは?」

「フフフ、気ニナル?」
「そりゃ・・・」
「2人ガ喧嘩シタ時ダヨ。正確ニ言エバ、喧嘩シテふらんそわーずガ怒ッテル時ダヨ」

なんだかわかるような気がするな・・・。

「じょーハおろおろシテルシ、ふらんそわーずはソンナじょーと口モキコウトシナイ。
ソウソウ、じょーノ頬ニふらんそわーずノ手形ガツイテイタコトモアッタッケ・・・」
さもおかしそうにくくっと小さく笑い声を上げるイワン。

最強のサイボーグ戦士の頬に手形をつけるフランソワーズって一体・・・

そんな疑念がノアの心に一瞬浮かんだ。
「惚レチャッタ弱ミッテヤツダヨ。」

この、ませガキ!!
「フフフ、ドウイタシマシテ。ヨクソウ言ワレルヨ。」

人の心が読める、しかも知識はコンピューター並みの彼にとっては、普通の赤ん坊にはごく当たり前な無垢な心を持ち続けるのには、ここは過酷な環境かもしれない。いや、それどころか純粋無垢な心など、イワンには無用の長物なのだろう。彼が身を置く環境はそれを必要としないどころか邪魔にさえなりかねない。

時には冷酷非道とも思われる判断を下さなければならない状況だってあるのだ。しかも、ほんの一瞬の躊躇ですら自分や仲間そして世界の終焉に繋がりかねない、そんな時に、赤ん坊らしい純粋さ、穢れのない心など持ち合わせていても何の足しにもならないのだ。

それは、この戦士集団のリーダーであるイワンの宿命でもある。
そして彼は赤ん坊ながらにその宿命を背負い続けるのだ。

「さてと・・・
事件も片付いたことだし、私は私の存在すべき時空間に戻るとするよ。」
「モウ?ふらんそわーずガ寂シガル。」
「ふふふ。私がこの時代から帰った後、全員の記憶を操作して、この事件に関する記憶を消すんだろう?」
「ワカッテタ?」
イワンはいかにも茶目っけたっぷりという感じに笑ってみせる。

「ああ。元々、過去に遡って記事を改ざんした時点で事件の記憶は消えるはずだった。それが消えていなかったのは、イワン、君が何らかの処置を講じたからだろう?」
「鋭イネ。」
「事件が完全に片付いたかどうかを検証する為には、自分達の記憶まで消してしまうわけにはいかない。だから、君は我々全員の記憶は消去されないように保護した。」
「ソノ通リダヨ。
ソシテ、最後ノ仕上ゲニ君ガ帰ッタ後デ皆ノ記憶を消シテ完了トイウワケサ。」
「流石だな。」

「タダ・・・」
とイワンは言い澱むが、
「本来の時空間に戻った私の記憶だけが消せない。
君の力は、私のいる時空間までは届かない。違うか?」
ノアがその後を続ける。

「ソノ通リダヨ。」
「君たちのことは忘れない。だが、私は決して他言はしない。
それが自分の存在を守ることにも繋がることだからな。」
「ソウ言ッテクレルト思ッテイタヨ。」

「そうか・・・。」
ニヤリと笑うノア。
お見通しってわけか・・・。
「じゃ・・・。」
右手を軽く挙げ、イワンに向かってウィンクしたかと思うと、現れたときと同じようにノアの姿がゆがみそして掻き消えた。

あのジョーとフランソワーズの子孫とは思えないくらいあっさりした別れ際だった。
ノアとの再会を喜んでいたフランソワーズに会わずに帰ったのは、きっとノアなりの思いやりなのだろう。

時空間を移動する際に、その人間の姿がゆがみそして消えていくさまは、以前自分が魔神像に送り込んだ時やミーの超能力で他の時空に飛ばされた時のジョーの姿を髣髴とさせる。

フランソワーズにとっては、忘れられない、だが思い出したくない記憶のはずだ。
そんなことも、あの時、ジョーの脳からは読み取られていたのか・・・
恐るべし、未来人の科学力、だな・・・。

いや待てよ、ただ単に照れくさいだけかもしれないな・・・。ジョーの血を引いているんだったら、それもありえないことじゃない・・・。

「サテト・・・」
ノアを肴にあれこれと勝手に想像するのがなんだか楽しくなってしまったイワンだが、キリが無いので、最後の仕上げに取り掛かることにした。
と言ってもイワンにとっては造作も無いことなのだが・・・。

精神を統一したイワンの瞳が一瞬だけ光ったかと思うと・・・それで全て終了だった。
例の記事に関する記憶はきれいさっぱり消え去ってしまった。

ただし・・・
「のあハ自分ノ記憶ダケガ消サレテナイト思ッテイルカモシレナイケド・・・」
本当はイワン自身の記憶も消すことはできなかったのだった。

未来人との接触(コンタクト)なんてそうそう経験できることじゃないし、コレくらいのことは許されるよね。フランソワーズが知ったら、「イワンだけずるい!」って唇を尖らせて怒るだろうけどサ・・





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                                    2009/09/30